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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
幕間 9さい:友情クエスト
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10-3.薬師見習いの依頼は友情割引で!




 マナちゃんのパパさんとママさんは、賞金稼ぎです。

 だけど元々マナちゃんのパパさんは、アカペラの街で主に調合済みの薬を扱う商家の跡取りだとか。

 ……うん、なんか行商修行に出ている時、他領で出会ったママさんにフォーリン☆ラブしちゃった結果、ママさんの賞金稼ぎ稼業を案じて自分も賞金稼ぎになっちゃった人らしい。

 今でも家にいる時は商家のお仕事をしつつ、ママさんが仕事に行く時は側で守る為について行くんだとか。

 わーお、らぶらぶだね(棒)

 そしてソラちゃんのお家は、薬師さん達に薬草を卸す問屋さん。

 2人のお家は4代前から取引があって、その関係で仲良しなんだって。

 ソラちゃんのパパも、マナちゃんのパパと親友らしいし。

 それでどっちも形は違えど薬を扱うお家ってことで、薬や薬草への理解を深める一環として薬師さんのところで修行中らしい。


 なんでもお店を構えて薬草やお薬を取り扱うには、薬草知識があることを証明する為に最低でも中級薬師の免状が必要なんだって。

 将来、お店を継ぐかどうかは未定らしいけど、それでも免状を持っておいて損はないってことで、2人とも結構真剣に薬術のお勉強をしていたことは知っています。

 ……2人だけ仲良くお勉強して、メイちゃんちょっと疎外感ーとか感じてないよ?

 

 本来は一人前の薬師が、見習を直接育てるのが正しい姿。

 だけど適性のない見習を育てても労力になるばかり。

 なので学校制度が普及しているアカペラの街では、薬師組合が1番初歩的な『初級薬師の免状』を取るところまでお勉強を見てくれるそうです。

 本当に才能がない人は、それすら取れないらしいけど。

 根気良く誠実な努力を続ければ、時間はかかっても絶対に取れる。

 それが初級薬師の免状だそうな。

 ……メイちゃんも、ちょっとだけお勉強しようかな……? いやいや、そんな時間を割いている暇はないない。強くならなきゃ!


 初級薬師の免状を取れたら、その時初めて薬師組合の斡旋で薬師としての師匠と引き合わせてもらえるらしい(徒弟制度)。

 つまり、薬師を目指すなら本当の出発点は初級薬師になった先。

 そこからが本当のスタートなんだと思う。


 そしてマナちゃんとソラちゃんは、今日。

 まさに、今日。

 初級薬師になる為の試験を受けてきたんだって!

 もう口述・筆記・実技は昨日の内に終わっているらしい。

 だけどもう1つ、時間のかかる試験が残っている。

 そう、薬草採取の実地試験です!

 薬師の位階によって扱える薬草の許諾範囲も変わるらしいので、初級で必要な薬草は本当に基本的なものばかり。

 だけど基本が大事だし、その基本を他と間違えるようでは薬師としてやっていけない。

 実際に野生の野山に分け入り、教えられた知識を元に薬草を採取する。

 ……まあ、知識が間違っていなくても不運が重なって取れない場合はあるそうだけど。

 薬草を採取できなかったとしても、ちゃんと知識はあるのか?

 不正防止とそれを判断する為、試験官として薬師として実際に働いている大人が1人ついてきますが。

 試験官は受験者の言動に口を挟むことはない。

 試験を受けるマナちゃんとソラちゃんがどう行動するのか、冷静に眺めるのみ。


 大勢で行っても他人の行動を見て倣っていては試験にならないので、この採取試験は1人~3人で行うものだそうで。

 仲良くペアになったマナちゃんとソラちゃんは採取に向かうように言われて、その足でメリーさんの酒場にやって来たそうな。

 もしもし2人とも? こんなとこに来ても薬草はないよ!

 2人ともわかってるんだろうけど、ね!


「それでね、メイちゃん」

「みなまで言われずとも、わかっちゃったよ」

「お願いできる?」

「2人のお願いだもん。お友達の為ならメイ、一肌脱ぐよ!」


 最近は『予言の年』が近付いているせいか、世界的に魔物の活性化や異常現象の報告が続いているし。

 2人とも、あまり街を出たことがない筈だし。

 土地勘がない状態で、山や森に入るのは命取り!

 つまりは薬草を採取に行く間の、道案内もかねて護衛してくれってことだよね!


「スペード、ミヒャルトー、ヴェニくーん」

「あ? なんだ?」

「ん、どうしたメイちゃん?」

「どうしたの?、メイちゃん」

「森に行くよー」

「は?」

「「え?」」


 当然の如く、他の3人も巻き込みました。

 猪退治から帰ったばかりだろうとなんだろうと構いません。

 だってヴェニ君の方がメイちゃんより森に詳しいんだもん!

 そして声をかけようがかけまいが、幼馴染の2人はついてくるような気がしたので、実は2人はついでだったりする。

 どうせメイちゃん1人でソラちゃん、マナちゃん、試験官のおじさんの3人は守りきれないから、護衛の穴をカバーしてくれる誰かが必要なのは明らかだし。

 碌な説明もしないまま、問答無用で連れ出しちゃおう!


「メイちゃん! 一応は正式な依頼としてお願いするつもりだし、報酬の相談とかしないと!」

「あ、そうでした」

「大体、今から行ったら夜になるだろうが、バーカ」

「うぅ……ヴェニ君に馬鹿って言われたー」


 勢いのままに突撃しようとして、慌てたソラちゃんに止められました。

 そうそう、肝心のことはまだ全然話合えてないもんね。

 ソラちゃんがしっかり者だったので、メイの暴走は阻止されました。


 いきなり突撃とか馬鹿か、とヴェニ君に罵られつつ。

 それでも友情割引で護衛請負が決定しました。

 ただし、今日いきなりというのは駄目だって。

 何の下準備も出来ていないし、いざいきなり行っても良いもんじゃないだろうって。

 試験監督の薬師さんにも確認したら、何も絶対に今日行かないといけないって訳じゃないらしくて。

 元々、薬草採取の実行には1週間の猶予があって、自分達が大丈夫って状況を整えてから行くものなんだって!

 今日はただ単に、メイ達に依頼する為に酒場に来たみたい。

 薬草採取の道具すらないのに、今からは無理だって言われました。

 うわぁ、メイちゃん失敗しちゃったー……。



 結果、学校はお休みの週末に。

 私達はそれぞれ武器と鉈を携えて、森へと出発しました。

 生い茂った枝葉を打ち払うには、やっぱり鉈が便利だよね!

 初めて森に入るマナちゃんやソラちゃんを囲む形で、森に分け入って行く。


「め、メイちゃん……最近はこの辺りにも魔物が出るって、ほんとう?」

「大丈夫だよ、マナちゃん! この辺に出る魔物だったらメイの蹴りで一撃だから」

「やっぱり出るんだ……」

「メイ、油断してんなよ。今まで雑魚しかいなかったからって、これから新しい魔物が出るようにならねぇとも限らない」

「う、気を付ける……」


 今はこの辺りに雑魚魔物が出ても、珍しくないけど。

 言われてみれば数年前まで魔物は雑魚すら出てこなかったっていう地帯。

 確かにより強敵が出ないとも限りません。

 ……っていうかヴェニ君、それフラグ?

 なんか段々先行きが不穏に思えてきました。


「今日探しているのはね、初級傷薬が作れるだけの薬草18種類と血止め草、それから一般的な毒消しの主材料とされている薬草3種なの」

「そんなに沢山、時間内に採取できる?」

「内の何種類かは生息条件が被ってるから、1つ見つけられたら芋蔓式に6種類くらい集まるはずよ」

「へえ……でも初級の傷薬って、そんなに沢山の薬草が必要なの?」

「それぞれの薬効が低い、間違っても毒にはならない薬草を掛け合わせて効能を出す薬だから……でも、薬によってはもっと沢山の薬草が要ったりするのよ?」

「ふわぁ……薬師さんって大変なんだねぇ」


 犯罪者を追うでも、魔物を討伐するでもない。

 荒事前提のお仕事じゃないからか、なんとなくのんびりした雰囲気で。

 まるでピクニックか何かみたいに、ほのぼのぽてぽて森を行く。

 油断したり、気を抜いていたつもりはない。

 だけどやっぱり、賞金稼ぎのお仕事に比べたら気が緩んでいたのかもしれない。

 この油断が、時に命取りになっちゃうのに。


「水が綺麗で、流れの緩やかな沢ってこの辺りにあるんだよね?」

「それだったら大きな川の支流が幾つかあったし、心当たりあるよ! 他にどういう場所に行きたいんだっけ?」

「ええと、一応事前に目星を付けてはいるんだけど……」

「地図見せてみろよ。先導してやるぜ」

「ヴェニくーん、馬鹿犬が見栄張って地図読めるとか抜かしてるんだけど」

「は? 流石に地図くらい、スペードでも読めるだろ」

「お、おう! 地図のいちまいにまい、俺にかかればらら楽勝だ!」

「「「「「…………」」」」」

「済みません、ヴェスターさん。先導お願いします。これ、地図です」

「ああ、わかった」

「地図の読み方なんてこれから覚えれば大丈夫だよ。焦らなくて良いんだよ、スペード」

「ちょっとした冗談だろー!? 本気にするなんて酷ぇや皆。俺だって地図くらいならちゃんと読めるって!」


 ぎゃんぎゃんと吠えるスペードには取り合わず。

 私達は前もってチェックされていた地図の場所と実際の環境の違いを説明しながら、マナちゃん達が求める場所へと案内していきました。

 草によって生える環境が違うので、森の中を転々と移動していきます。

 自然と森の奥へ、奥へと踏み込んでいく形になりました。

 薬師の望む薬草を求めて……普段はメイ達が寄り付かないような、今まで足を運んだことのない区画にまで、足を延ばして。


 


 そうやって森の奥へとずんずか踏み込んで、お昼も近くなった頃でした。

 異変は唐突に、メイの手元で……手の中で、起きた。


 ――ちゅぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいん


 空気を震わすようにして、実体のない音が響く。

 実際の音じゃない。

 特定の誰か……私にだけ聞こえる、特殊な幻の音。

 問題は、その音が。


 前世で聞き知った、『歯医者さんの音』に良く似ているということで。


 思わず身をすくませ、両手で耳を塞いで身悶えちゃいました。

 記憶が……! 忌まわしき恐怖の記憶が強引に呼び覚まされる!

 生まれ変わっても忘れられない、身に染み付いたこの恐怖。

 きっと私は前世、この音にトラウマがあったのでしょう。

 それが自分の手の中から聞こえてくるとか、ちょっとした怪談です。


「な、なになになに!? 何が起きてるの!」

「お……おい? メイ、どうした」

「メイちゃん?」

「い、いやぁぁあああああ」

「メイちゃん! どうしたんだ!」

「めぇぇぇぇえええ!!」


 いきなり原因不明のパニックを起こした私を休ませる為。

 急遽、休憩時間と相成りました。

 かたく絞った濡れタオルを顔に乗せて、木に背を預けて座り込む。

 だけどメイちゃんの内心は、休憩するどころじゃありませんでした。

 必死に、それはもう必死に、連絡を取ろうと心の中で呼びかけ続ける。

 まるで叫ぶような心の声で呼んだのは、セムレイヤ様。

 盟友関係の竜神様を、本当にもう形振り構わず緊急呼出しです。


 ――セムレイヤ様、セムレイヤ様、せーむーれーいやーさまぁぁああああ!


 どうしてそんなに、呼び続けたのか?

 理由は1つしかありません。

 だって、メイの手の中で私にしか聞こえない音を放ったモノは。

 まるで非常時だと伝えるように、異変を訴えてきたモノは。


 今のメイが愛用している、1本の槍。

 だけどそれは、ただの槍じゃなくって。


 竹槍は流石に無茶があると、某神様に止められました。

 その時に、神様は「これを使いなさい」と渡してくれたモノがあったんです。

 きっと私の望みに応える、世界で1つの槍が作れるからと。


 渡されたモノは、本性である竜型を取ったセムレイヤ様の『(タテガミ)』と、『鱗』を砕いて作ったという粉末。

 つまりは、紛れもない『神の一部』。

 素知らぬ顔で、知らぬふりして。

 私は竜の鬣を材料に槍を作りました。

 流石は神様の一部、かなりの勝手の良さで、私の望むままに姿を変えた。


 そんな、ブツが。


 今更になって、この場面で。


 いったいどんな異常を訴えて来たって言うんでしょうね?


 私はその答えを知る為にも、寝た子を叩き起こす勢いでセムレイヤ様に呼びかけ続けたのでした。







メイちゃんの槍『竜神皇の竹槍』

 最高位の竜神の素材をふんだんに使用した贅沢な一品。

 鱗を砕いたモノでコーティングした鬣を、中の節をくりぬいた竹槍に通して心材としたもの。

 穂先にはかつて貴族に下賜されたモノを、竜神の鱗(粉末)でコーティング補強して使用。

 特徴:よくしなる

 


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