表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
幕間 9さい:友情クエスト
122/164

10-1.舐めた手合いの潰し方



 どうして時間が経つのってあっという間なのかな?

 この世界の獣人に生まれて、早数年。

 メイちゃんは9歳になりました。


 そして第一初級学校は、もう最終学年。

 それももう、期間の半分が過ぎようとしています。


 メイの進路(みらい)を決めてからは、もう4年。

 あの時、目標にした『将来の自分(ストーカー)』に、私は一歩でも近づけているのかな?

 色々と悩みは尽きませんが、今はこの道を信じて突き進むしかない。

 真っ直ぐ、時に斜めになったとしても。←つまり斜め上

 なんだか最近、そんな心境です。

 

 取敢えず来年は、『ゲーム主人公(リュークさま)』の所在地がはっきりしたので、諦めていた『ゲーム序章』を見守り(ストーキング)に行くつもり。

 色々と仕込みも行った立場としては、どんな感じに結果が出るのか興味もあるし。

 だけど『序章』を見に行くということは、その分、修羅場に巻き込まれる危険性も高いってこと。

 元々『ゲームシナリオ』を追跡するつもりだったし、危険は承知の上なんだけど。

 現時点……ううん、来年の時点でのメイちゃん(10)の実力で、危険に対応できるかはちょっと不安。

 だから少しでも実力を底上げする為に、今年は実地経験……つまりは賞金稼ぎの仕事を積極的に受けていくつもりです。

 こうやって積み上げた実力の先に、望んだ夢(ストーカー)があるって信じてるから。


 

 そうして、修行も兼ねて。

 幼馴染みや師匠を道連れにしながら賞金首狩りを繰り返していたら、知らない内にメイちゃん達の名前は前にも増して売れていったみたいです。


 ……こんな面倒な手合いが現れる、くらいには。


「おっまえらが、評判の『白獣』さまかよぅ!」

「ゲラゲラゲラゲラ!」

「おいおいこんなちみっ子が街を代表する凄腕賞金首だなんて名乗らせといていーわけぇ?」

「「ゲラゲラゲラゲラ!」」

「なんかのキの迷いっての? なんかトチ狂ってんじゃーん? あ、それとも本当はただのマスコットとかー!?」

「「「ゲラゲラゲラゲラ!」」」

「ちっこいチビ共はチビ共らしくーぅ、身分ソウオウっての? 公園のお砂場にでも行ってちまちまアリの巣観察でもやってりゃ良いんじゃね!?」

「「「「ゲラゲラゲラゲラ!」」」」


 場所は、メリーさんちの酒場の目の前。

 人の往来も程々にある、一般道でのこと。

 酒場に入ろうとしたところを呼び止め、わざわざ嘲笑混じりにわかりやすく煽ってきたのは、5人組のおにーさん。

 装備から見て、賞金稼ぎなのは確か。

 そこそこ良い武器防具を持っているみたいだし、駆け出しを脱したくらいかな?

 でも徒党を組んで敢えてわざわざ自分より(体格・年齢的に)小さい同業者に絡んでくるあたり、小者臭さが半端ない。

 ちょっと稼げるようになってきて、天狗になっている気配がした。

 そのピノキオみたいな鼻っ柱、折っちゃうぞぅ。

 だけどすぐさま挑発に飛び乗って喧嘩しているようじゃ、大人げないしみっともない。

 1番推奨される対応法は、たぶん取り合わないことなんだろうけど――


「ボクちゃんたちぃ、いくつぅ? ここねぇこわーいおっさん達が来るところだっからぁー……ガキの来るところじゃねえってこと。わかるぅ?」

「おいおい、それがわかるだけの脳ミソねぇから来てんだろぉ? 言ってやるなよぉ、可哀想だ・か・らー!」

「ぼくたちぃ、あったま悪いのーってかぁ!? あっはははははは! マジ可哀想!」

「ゲラゲラゲラゲラ!」

「顔はかわいぃのにー、すっげぇ残念な頭ー!! 賞金稼ぎなんてあっぶねぇ仕事じゃなくってぇ、貴族の変態おじ様あたりに媚でも売っといた方が似合ってんじゃね!?」

「ああ、それわかる! 特にそこの――男か女かわかんねぇガキと、白いくるくる頭な! きっと総レースのお上品なドレス着せてお人形みたいに可愛がってくれるだろうさ」


 ――うん、蹴って良いよね!

 ゲラゲラって聞こえる声で笑う人、メイは初めて見ました。

 初めて見たけど、でも全然感動はないかな!

 むしろ思った以上に不快で気持ち悪い。

 なんでみんな、声を揃えて笑うの?

 いったいどういう体制がしかれているのか。真中にいた人から順に、1人喋り終わる度に笑い声をあげて追従する側に移行していくという……。

 最初っから笑い声出してる人は、笑い続けてるだけだし……。

 これも一種のチームワークって言うんでしょうか。

 メイちゃんは、全然理解したいと思えないけど。


 どう考えても、明らかな嘲笑。明らかな挑発。

 私達を子供と見て取って、舐めてかかられてます!

 今更こんなの珍しい事態じゃないけど。

 特に賞金稼ぎ初めたばっかの頃は、心配した大人に諭されたりお説教されたりと……いや、挑発されるよりも本気の心配を向けられる方が重かったかも、うん。

 嘲笑われるだけなら、そっちの方が気楽かも。

 だって心配して帰れって言う人を、まさか足蹴にする訳にはいかないもんね!


 こういう舐めてくる手合いは、ミヒャルトがかなり活き活きと足蹴にする姿をよく見ます。

 そんな彼が最近女王様に見える今日この頃。


 アカペラの街は交易で栄えているだけに、賞金稼ぎや荒くれ者の流入も結構多い。

 出ていく人も多いけど、定住する人はもっと多い。

 そんな人達が腕っ節頼りの金策手段を求めて、賞金稼ぎが溜るメリーさんの酒場にやって来る。

 メイちゃん達が賞金稼ぎ(バイト)の為に出入りする、定番の場所でもあります。

 そうしてはち合わせた私達を、子供と侮って馬鹿にしてくる訳だけど。

 噂やらなんやらで事前にメイ達のことを知っている人は、凄く面倒。

 先行した噂のイメージと、身勝手な思い込みで絡んでくるから。

 なんで一々絡んでくるのかなー?

 なんとなく理由はわかる気もするけど、理解する気がないので今日も思考を放棄します。

 それよりも叩きのめして黙らせて、私達の腕がどれほどのものか証明ついでに知らしめる方が手っ取り早いよね。

 ……ん? 何が手っ取り早いかって?

 勿論、メイ達を馬鹿にする、あの口を閉じさせるのに、です。


 新しくアカペラの街に賞金稼ぎが入って来る度にやり合うのは、凄く面倒臭い。

 賞金稼ぎって人達は、時として仕事の横取りや、賞金首(エモノ)の横取りが発生するくらいに腕力主義なところがあるから。

 お仕事が受注制じゃなくって完全早い者勝ちの達成報告制だから、そんなことになるんだけど。

 要は力さえあれば、なんて勘違いしている人が多すぎる。

 特に若い人と、挫折を知らないお馬鹿さんに!

 だけど絡んでくる面倒な人達も、1つ1つ丁寧に潰している(主にミヒャルトとスペードが)内に、メイ達に一目置く空気が生まれてきたよ!

 お陰で最近は、無謀な人も減ったと思ってたんだけどな。


 久しぶりに喧嘩を投げ売りしてくる新参者が現れたかと思えば、なんだか物凄く腹の立つ気持ち悪い人達でした。

 特に「ゲラゲラ」っていう笑い声が耳障りだよ!


「スペード、お前は左の2人を殺れ。僕は右を殺る」


 お陰で、早速ミヒャルトがやる気……いえ、殺る気です。

 

「えぇ? おいおいミヒャルト、俺が2人でお前が3人とか不公平だろ。俺()3人が良い」

「嫌だ。聞きなよ、あの耳障りな声。精神的苦痛と耳への嫌がらせに対する慰謝料代わりに、本気で泣きを入れさせないと気が済まない」

「だったら、俺とお前が2人ずつでヴェニ君が1人ってのは?」

「は? 俺はパス。お前らがやれ、チビ共。見るからに面倒臭そうな奴らをわざわざ潰すのなんざ、どう考えても面倒じゃねーか」

「聞いた? スペード。ヴェニ君は降りるって。だったら僕達で分けないと」

「んじゃ、2人ずつ分けて最後の1人を俺ら2人でやるってのは?」

「僕、痛めつけるのはじっくりやりたい主義なんだよね。ああいう僕達のことを舐め切ってる手合いは、ちょっと痛い目に合わせてやらないと気が済まない」

「ミヒャルト、こえぇ奴……それ絶対ぇ『ちょっと』じゃ済まねーやつだろ」


 何やら背後で、不穏な山分け相談が聞こえてきますが。

 どうやらメイ達に真っ向から向かい合って連帯感に満ち溢れた挑発をしてくるお兄さん達に、その声は聞こえていないみたい。

 聞こえてたら、きっと嘲笑うのを止めて激怒してたと思うんだけど。

 どっちかというと頭に血が昇って襲いかかって来てくれた方が、正当防衛の大義名分が出来て後が楽なんだけどなぁ。


 でも、まあ。

 荒事専門の賞金稼ぎ、舐められたらオシマイだっていうし。

 うかうかしていたら、『獲物』は横からかっ攫われちゃう。

 それを防ぐ為には、どうするべきかな?


  A. 先手必勝


 うん、やるべきことはひとつだけ。

 ミヒャルトもスペードもヴェニ君には声かけてもメイには声かけてくれないんだよ!

 これって仲間外れだと思う。酷い。

 メイちゃんだってムカムカしてるのに。

 私だって、ストレスはすっきり気持ち良く晴らしたいって思うのに。


 だから、置いてきぼりにされる前に。

 幼馴染みの2人に、全部取られちゃう前に。

 メイちゃんの取り分は、積極的に獲っていこうと思います。


「――メイちゃん、いっきまーす!」


 だから、メイちゃんは。

 背負(しょ)ってた槍をすちゃっと構え……

 ……た、ように見せかけて。

 流れる動作で目の前の地面にぐさっと突き立てました。

 いきなりのメイちゃんの行動に、怪訝そうに顔を歪めるのはゲラゲラ笑いの下品なおにーさん達。

 その阿呆面に残された猶予も、あと僅かだよ?


「「メイちゃん!?」」

「……ああ、ほら。てめぇらがぐっちゃぐちゃとのんびり配分に揉めてっから。『白獣(うち)』のピンポン玉が飛び出してったぜ」


 ヴェニ君、ピンポン玉って表現は酷いと思うの!

 だけど抗議する暇なんてない。

 だって私は、地面に突き立てた槍をぎゅいっとしならせ反動付けて。

 既に弾丸よろしく飛び出して行ったから!

 

「く……っ遅れていられないよ、スペード!」

「メイちゃん、わかってたけど行動力有り過ぎだ!」

「悠長にやってっと、メイに全部取られるぜ? 折角だからてめぇら、相談通り左右から行け。誰が何人仕留めるか、競争でもしな」


 メイの第1ターゲットは、中央のソフトモヒカン頭。

 モヒカンに加えて肩のあたりまで伸びたモミアゲが特徴的。

 あのおにーさんを倒したら、次に誰を狙おう?

 手近な人から討取っていこう!


 取敢えず、ミヒャルトやスペードに勝つ。

 2人より多くのおにーさんを狩る。

 それだけを念頭に置いて、メイはソフトモヒカンに両足揃えた飛び蹴り(蹄)をお見舞いしたのでした。

 脱いでて正解、蹄カバー。




ヴェニ君の認識

 メイちゃん → 血の気の多いピンポン玉

 スペード  → 気の早い鉄砲玉

 ミヒャルト → 腹黒陰険拷問吏


 ちなみに最終的な獲物撃墜数は

 メイちゃん:スペード → それぞれ2人 

 ミヒャルト → 1人


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ