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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
8さい:ストーカーの大きな一歩
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9-13.ハイスペック主人公と強制かくれんぼ



 私はメイちゃん(8)。

 地上に暮らすヒト3種族の中でも運動性能に優れたスペックを持つ獣人の女の子。

 ちいちゃい頃から自分でも鍛えてきた方だと思うし、身体能力は子供にしてはかなりの方だと思ってたんだけど……


 そんな私は、今どうやら。

 RPGゲームの主人公というチートな宿命を背負って生まれてきた、ハイスペック竜神様(未覚醒)10歳との強制かくれんぼという、割と高難易度のゲームに臨ませられています。

 どうしてこうなった。


 昨夜、セムレイヤ様の警告をもらいました。

 どうやらリューク様が私(監視(ストーキング)中)の存在に気付いているらしく、明日は1日追いかけ回すつもりのようですよ――と。

 わあ、バレてた。

 

 最近はヴェニ君相手でも、15mくらい距離を置けば気配を察せられることなく追跡できるようになってきてたのに……

 リューク様には念の為、ヴェニ君に対する2倍の30mばかり距離を置いていました。

 だけどヴェニ君を基準に考えちゃ駄目だったみたい。

 流石は竜神様(未覚醒)……メイちゃんが甘すぎたよ。

 

 メイちゃんは思い悩みました。

 どうしようって。

 相手が追ってくるとわかっていたら、家に引籠っているのが最善かもしれない。

 だけど相手はリューク様だよ。

 追い掛けてくるなんて……そんな挑戦的なリューク様(少年期)を見逃して良いのか、と。

 メイちゃんの秘めたる情熱(パッション)が、ストーカー魂が叫びました。

 この滾る激情を押さえる術なんて、メイちゃんにはない……!

 

 あと、そもそも。

 田舎の村で、お隣さんの子供というポジションにいるリューク様のことです。ご近所付き合い的に、すんなり家の中に通される可能性があります。

 そうなったら、メイちゃん 逃 げ 場 な し 。

 全力で逃亡しようにも、此処がホームです。

 家の中に上がられたら、逃げようがありません。

 お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの手前、呼ばれたら顔合わせて対応しなくっちゃいけなくなるしね……!


 結論:家の外に出て隠れ忍んだ方が安全な気がする。


 なのでメイちゃんは、今日いちにち逃げきることを決意しました。

 今だけはストーカーじゃなくって忍者目指すよ!

 幸い、ストーリーの崩壊を私同様に恐れるセムレイヤ様が、助力を申し出てくれました。

 ずっとリューク様の肩にいて、そこから現在地点の情報をくれるって!

 ありがとう、セムレイヤ様!

 貴方だけが頼りですー!


 ……と、そう思った時もあったんだけど。

 セムレイヤ様は予想以上に頼りになりませんでした……。


 ううん、最初はちゃんとリューク様の現在地情報をくれたんだよ?

 くれたんだけどねー……。

 ずっとリューク様の肩に留っていたことが、裏目に出ました。


「――ごめん、コーパル。ちょっと邪魔い」

「ぴっ!?」

「ほら、少し遊んできなよ」


 あはは、そうだよねー……

 どうもリューク様は、ある程度近付けばメイちゃんの気配か何かで現在地を特定できるっぽくて。

 逃げ回るメイちゃんを探して、あっちこっち頻繁に移動を繰り返す。

 そんな、常に動き回っているような状態で。


 肩にでっかい鳥がずっといたら、流石に邪魔だよねー……。


 愛する我が子に「邪魔」といわれてしまった、セムレイヤ様。

 彼の御方は傷心を受けたらしく、放心状態。

 何故か妙にそわそわしているリューク様は、鳥さんの魂が抜けそうになっちゃってる様子も、気付かずスルー。

 そのまま近くの木の枝にそっと移して、鳥さん放置でメイちゃんの追跡を再開しました。

 ハッと我に返った竜神様(鳥)も、再度息子さんに接近を試みたんだけど……


「コーパル? 今日は森で遊んでこい」

 

 すげない様子で、取りつく島もなかった。

 これにはメイちゃんも内心で泣いた。

 でもきっとセムレイヤ様は心の中で号泣してたんじゃないかな。


 仕方がないので上空でセムレイヤ様は待機。

 メイちゃんの離脱が不利になる危険領域までリューク様が接近した時には、鳴いて警告をくれるようになったんだけど。

 やっぱり上空とはいえ側を離れると、位置の把握精度が落ちました。

 うん、身を隠す為にメイ、茂みや木陰に潜んでばっかりだもんね。

 それを追っかけられたら……自然とリューク様も、空の上から位置を把握し辛い茂みや木の下を移動することになる。

 お陰で危険な距離まで接近されて、ひやっとすることも4、5回……。

 リューク様、なんでそんなに執念深くメイを探しちゃうのー!?

 

 メイちゃんが超必死に逃げれば、逃げるだけ。

 そこまでして逃げるのか!?とリューク様は目を丸くしていて。

 更なる好奇心を煽られ、闘争心めいたものをめらっと燃やして。

 ますます追いかける意欲を高めていようとは……

 そんなこと、メイちゃんは知る由もありませんでした。




 追いかけっこは、日暮れまで続いた。

 周囲が暗くなるギリギリまで、何故かお互いに粘っていて。

 それでも怒られる前に家に帰りつく。

 帰った後でリューク様が訪ねてきたらどうしようって、何度も思った。

 わあ、すっごいスリル満点☆

 こんなに潜伏・追跡・逃走スキルが鍛えられる旅行になるとは思いもしなかったよ!

 パパの実家に滞在中に、隠密スキルがガンガン上がっている気がする。

 なんだろ。アレかな、リューク様。

 メイちゃんに追いかけ回されてる間に、追跡者(ストーカー)の正体を暴いてやろうって躍起になっちゃった感じなのかなぁ……?

 観察(ストーキング)対象に存在を察知されているようじゃ、メイちゃんもまだまだです。

 アカペラの街に帰ったら、ヴェニ君にみっちりしごき直してもらわないと……!

 特に、気配の消し方とか、森に潜伏する技術とか。

 

 目標を新たにしつつ、私は自分を鼓舞しました。

 メイちゃん、もっと頑張んなくちゃ……!

 まだまだまだまだ、努力が必要だ。


 追跡(ストーキング)の本番は、7年後。

 その時、今よりも強くなって感覚も鋭敏になっているだろうリューク様を、気取られずに観察(ストーキング)出来るようにならないと。

 自分の技量を磨くことに、怠る余地はありません。

 今のリューク様を騙せないのに、手を抜くなんて以ての外だもん。




 そんなこんなで、数日が経ちました。

 追いかけっこは連日続いています。

 気付けば村への滞在も、14日目。

 明日で、15日。

 アカペラの街へ帰る日です。


 明日は早朝からの出発。

 だから今日いちにち逃げきれば、メイちゃんのミッションは達成です。

 なんだかんだでかくれんぼは、リューク様をよく観察する機会だった。

 リューク様を見放題だし、隠密(ストーカー)の修行にもなる。

 考えてみれば美味しい日々でした。

 だから、ちょっと名残惜しい気もするけど。

 これで暫くリューク様を見られなくなるのかって思うと、ちょっとしょんぼりしちゃう。

 でも見つかったら元も子もない。

 これも明日(ストーカー)の糧にすべく、メイちゃんは気合いを入れて最後のかくれんぼに身を投じました。


 最後の1日。

 そう思っていたのは、私だけじゃない。


 最後の機会に、まさかリューク様が手を打っていたとか。

 数日間の追いかけっこで、自覚なくパターン化していた行動を予測されていた、とか。

 全然思いもしなかったメイちゃんは、たぶん間抜けなんだろうな。


「ひゃっ ひゃわぁぁああああああっ!?」


 木から木へと、飛び移っての逃亡中。

 枝から枝へと身軽に飛び跳ねていた、メイちゃん。

 だけど足が、何かに引っ掛かった。

 え゛。

 

 急な失速、足に伝う反動。

 何が起きたのかと原因を探る目が見たものは。

 葉陰に隠すように仕込まれていた、縄。

 ……と、縄の輪っかに引っ掛かった、メイちゃんの足。

 げ、原始的な罠にしてやられるとはー!?


 飛び移ろうにも飛び移れず。

 飛び跳ねていた身体の反動、全部足にかかって。

 メイちゃんは逆さ吊りに……なるか、と思いきや。

 どうやら予想以上に反動は強かったっぽい。


 諦めの眼差しで、メイちゃんが見る先で。

 縄が、切れた。

 それはもう見事にぶっつりと。


「めっ!?」


 ざっぱーん!

 落ちた先は小川だったのは、良かったのか悪かったのか……。

 硬い地面に受け身も取れず落ちるよりは、マシだったのかな?

 小川のお水、とっても冷たいけどね!

 しかも川とは言っても水深15㎝くらいの浅い川だから、そこまで緩衝材として高い効果はなかったけどね!

 むしろ着水した分、被害は拡大したかもしれない。

 全身びっしょりお水かぶって、髪の毛も耳もへにゃっとなっちゃう。

 今のメイちゃん、めちゃくちゃ情けない……。

 姿も、心情も、身体能力的にも。

 やらかしちゃったな、と……しょんぼり肩が落ちた。

 

「あ、あうぅ……」


 全身びしょ濡れで、どうしようって途方に暮れて。

 うっかり川の中に座り込んでしまった行動は、命取り。

 状況を考えれば、戸惑ったりせず即座に逃げるべきだったのに。

 一瞬、思わぬ事態に思考が麻痺しちゃっていた。


 私の身に起きた事故は、思いがけない事態だったみたいで。

 慌てて、息せききって。

 罠の仕掛け人は、すぐ近くまで迫って来ていた。


「……ごめん! 大丈夫、か……?」

「えっ」

「本当にごめん!」

「え、えぅー!?」


 は、背後に人の気配がする……! 

 そして、ここ数日ですっごく聞き慣れた声が! 声がするよぅ!?


 いつの間にか。

 うん、本当にいつの間にか。

 メイがずぶ濡れで硬直している間に、リューク様が後ろに来ていた。


 何時の間に、この急接近!

 ここまで接近されたら……顔を見られるのも時間の問題!?

 どうする、メイちゃん!?


  a.たたかう

  b.尊い犠牲

  c.アイテム

  d.にげる

 

 うん、駄目だ!

 どうしよう、メイの脳内……碌な選択肢がなかった。







 今回の選択肢、突拍子もないものが見当たりませんね!

 それはきっとメイちゃんの、リューク様への遠慮のなせるわざ。


裏話:リューク様が無性にメイちゃんを気にする理由の1つ

 メイちゃんはこの世で唯一「神としてのリューク様の信者」。

 ストーカーとして捧げる信奉が、信仰心に変換されている模様。

 まだ神様として覚醒していないリューク様ですが、どうやら神様の本能的な何かが信仰を察知→たった1人の信者だから、無意識に気になっている。

 全部無意識なので、リューク様はお気づきじゃありませんけどね!


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