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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
8さい:ストーカーの大きな一歩
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9-12.あたらしい仲間(※ストーカー同盟)

後半、リューク様視点。



 何だか随分と悟っちゃった様子のトーラス先生。

 あれ、おっかしぃな……悟りってそんな一晩かそこらで開けるようなもんだっけ。少なくとも簡単に開けちゃいけない気がするのは気のせいかな。

 メイはちょっとびくびくお耳を震えさせながら、そっとトーラス先生の拘束を解いた。

 今のトーラス先生は、何を言わずとも暴れ出すようには見えなかったから。

 自由を取り戻したトーラス先生は、体の関節を鳴らしながらメイちゃんに視線を注ぐ。

 正直、かなり居た堪れない。


「――白い、子羊。そうか、お嬢ちゃんが『(しゅ)』の仰った使徒様だったのですな」

「え、えぅ? 使途?」


 一瞬、脳内でそんな名前で呼ばれる化け物が咆哮を上げたけど。

 えっと流石に違うよね。

 使途と言えば、天使……ってメイちゃん違うよ!?

 あんな翼生やしっ放しの変態生物(偏見)じゃないよ!

 冷汗掻きかき、しどろもどろに目も泳ぐ。

 セムレイヤ様、メイちゃんのこと何て説明したの……?

 無性に気になるけど、多分ここは否定しちゃいけないところだ。


「え、えーと……それがセムレイヤ様のお使い的な意味なら」

「おお……! やはり、そうなのですな!」


 トーラス先生の瞳の奥の大銀河が、潤む。多分、感激で。

 頬を恍惚と朱に染めて、トーラス先生は両手でメイちゃんの手を掬い取ると……額に押し戴き、神を讃える祝詞を唱え出した。

 マジでなにした、セムレイヤ様。

 トーラス先生ってこんな狂信t……信心深いタイプだったっけ!?


「おお、おぅ……そうとは存ぜず、昨夜は失礼を」

「い、いやいや襲撃したのはメイちゃんの方だよね!?」

「それも恐らくは、神の試練じゃったのでしょう。儂の能力を測ろうとなされたのじゃ! いや、もっと深遠な意図があったのやもしれんのぅ……神の深謀遠慮は、人の身には窺い知ることすら出来ぬのじゃから」

「なんという好都合解釈」

「? はて、何と仰られた」

「あ、ううん!? なんでもないよ!」

「おお、それに使徒様のお力を儂に知らしめようとなさったのやもしれぬ。いきなり使徒様の如きうら若き乙女が現れても、神の御使いとは易々と信じられんかったやもしれんしの」

「なんという好都合解釈Part2……」 

「??? はて、なんと仰られた」

「ううん、何でもないかな!」


 数時間竜神様に任せてみると、トーラス先生はセムレイヤ様に関することなら全肯定の狂信者(イエスマン)と化していました。

 これが、神の本気か……。

 

 孫娘の身柄を質に、呼び出され。

 あまつさえ容赦のない襲撃で腰に響きそうな畳みかけを受け。

 更には罠に落されて気絶の上、容赦のない全身拘束。

 その状態で朝まで倉庫に放置された挙句、朝ごはんは納豆パン。

 

 それで一切の文句を口にすることなく。

 深い感動と感謝を浮かべる顔は、どう見ても本気。

 心底からの信奉を襲撃者の親玉っぽい神に捧ぐ……と。


 話運びは確かに、とても楽になったんだけど。

 セムレイヤ様の手腕が恐ろし過ぎて、初めて竜神に畏怖を感じた。

 神様って凄い。

 凄くて、こわい。

 今度、セムレイヤ様に何やったのか詳しく聞いてみようっと。



   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 なんとなく釈然としないものを感じつつ。

 村への滞在中、メイは時にリューク様やエステラちゃん、アッシュ君やラムセス師匠といった面々を、遠く離れた場所からそっと身を潜めて観察しながら過ごし。

 時としてセムレイヤ様や、トーラス先生とそれぞれ個別に相談や打ち合わせ、計画の試案を繰り返しつつ。

 予定の滞在日数は、瞬く間に過ぎて行った。



 リューク様が12歳の夏、この村では事件が起きる。

 それを……事件を『事件』で留め、『惨劇』にしない為に。

 全てじゃないけど『神のお告げ』というとっても便利で都合の好い言葉を前面に押し出しながら、トーラス先生がやるべきことに関わることは包み隠さず情報を提供した。

 『神様の定めた運命』の道筋を、リューク様が踏み外さないように……って重々良い含めて。

 うん、その運命を定めたのは恐らく神様じゃなくって、前世の世界のゲーム会社の人だと思うけど。

 ここまで世界規模で酷似しているんだから、それは『高確率で訪れる未来』と見て間違いはないはず。

 今更細かいことは気にしないで都合のいい言葉を並べたてよう。

 そっちの方が、トーラス先生にとっても飲み込みやすいと思うから。


 事件の際に、リューク様が少し村を離れた隙に。

 この村は炎に包まれ、魔物の襲撃を受ける。

 そして事件直後、村は周囲の森ごと大陸から姿を消した。

 ラスボスが異なる次元に引きこんだんだけど、そんなことがリューク様にわかる筈もなく。

 後に残されるのは広範囲に及んで土の抉られたクレーターのみ。


 後々異なる次元に隔離された、この村にリューク様はやって来る。

 ラスボスとの決戦直前のこと。

 その時には村の生き残り達が、持てる限りの力で村を再建しようとしていた。

 次元の挟間で、森から出ることも出来ず。

 他の村や町との繋がりも絶たれ、物資も何も乏しい中で。

 かつての活気には程遠く寂れた村の跡地を、それでも懸命に立て直そうとしていた人達。

 自分達は、此処以外に行ける場所がないからと。


 つまり、一定数の村人が生き残っても問題ないってことで。

 ひょっとすると村人全員生き残っていても不都合はなさそうだな、ってことで。

 特に誰かが死んだって描写もなかった気がするし。

 師匠キャラの片方以外。


 なので。


 トーラス先生と鳥(セムレイヤ様)には、2年がけで村の下にこっそり防空壕的な避難所を作ってもらうことになりました。

 地表がめらめら燃えても蒸し焼きにならないよう、魔法の力で何とかして下さいって無茶ぶりにも、トーラス先生は冷汗を流しながら快く快諾してくれたよ!

 いざ避難!って時に誘導する人が必要なので、村長さんとか地区班長さんには教えて手伝ってもらう予定。

 ラムセス師匠にも秘密にする理由は、トーラス先生に口車全開で頑張ってもらおうと思う。だってメイちゃんみたいなお子ちゃまが交渉に当たっても、何の信用もないしね!


 リューク様にバレたらまず間違いなくシナリオが狂うんで、村のほとんどの人には内緒です。

 旅立ちの章ともいえる、プロローグ。

 そこで悲壮感とか決意とか覚悟とか、そんな辛い気持ちをリューク様は得ることになる。

 本当は辛い思いなんてしてほしくないけど。

 リューク様が苦しむのは、かなしいけど。

 でも、そういう感情を持っていたからこそ、物語の中でリューク様は我武者羅に強くなって、前に進んで……

 これからのリューク様の冒険の、原動力になる。

 だから、ここでメイが邪魔をしちゃいけない。

 これからの運命と、世界を救う使命。

 リューク様が自分の辿る道筋を、達成できるように願っているから。

 ここだけは本気で、細心の注意を払って、シナリオクラッシュしちゃわまいようにしないといけない。


 もしクラッシュしちゃったら。

 その時は心を鬼にして辻褄合わせに全力疾走だよ。

 

 要は、リューク様が「村が全滅した! 師の片方が自分の為に死んでしまった……!」と思い込めば良いんです。

 偽装工作の為なら、大好きだったゲームのシナリオが順調に進む為なら、メイちゃんは悪役にだって転身してみせる……!

 事件の翌朝には村も次元の狭間にサヨナラしちゃうので、それまでの間にリューク様が盛大に勘違いするよう仕向ければ良いんです。

 姿を曝す気だけは、更々ないけどね!

 その時には是非、セムレイヤ様に頑張ってもらおうと思う。

 どうせその時には既に濡れ衣装備しちゃってるはずだし、余罪がいくつか増えても問題ないよね!



 ――メイちゃんは知りませんでした。

 実は今までの……ここ数年の行動で、既に序章のシナリオで結構重要なところを半ばクラッシュしかけていることを。

 まだギリセーフだけど。

 下手したらアウトすれすれのところを蛇行ダッシュしていたことを。

 私は、私達はまだ、知らなかったんです。

 そのことで、後にスペードに損な役回りを押し付けることになろうとは。

 ……ごめんね、スペード!


 

   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 ――最近、視線を感じる。

 これは多分、気のせいじゃない。


 例えば朝。

 師匠や先生と日課の修練をしている時。

 視線を感じて気配を辿れば、感じ取ったのは隣家の木の上に『ナニか』いるなってこと。

 だけど修練の途中で、気を逸らすことは師匠からの拳骨を招く。

 無性に気になるけど、俺は気配を無視して修練に励むしかなかった。


 お隣に遊びに来ている、あのチビっ子達。

 その父さんだって人が、毎朝修練に混ざって身体を動かしている。

 なんでも職業軍人だとかで、鈍らない様にだとか。

 最初は何故か師匠と険悪だったみたいだ。

 だけど互いの技を競い、手数を競いとやっている内に打ち解けていた。

 『男同士は殴り合ってわかりあう』って現象の実例かな。

 俺とアッシュはいくら殴り合ってもわかりあえる気がしない。

 主に、アッシュの言いがかりのせいで。

 だから殴り合って理解が生まれるなんてデマだと思ってた。

 ……本当のことだったんだなぁ、と妙に感心した。


 シュガーソルトさんは言葉の端々から親馬鹿臭が漂ってるけど、実際に目にした双子はとても可愛かったから、無理もないと思う。

 なんだか微笑ましいな。

 うちの親も、もしかしたら俺の知らないところでこんな感じに子供の自慢話とかすr……いや、しないかな?

 子供にメロメロってこの状態のことを言うんだろうなぁ。

 軍人らしい威圧感も師匠と手合わせしている時だけで、それを除けば子供好きで気さくなお兄さんって感じだ。

 職場では目下の軍人にも指導を行っているとかで、俺にもアドバイスをくれたりする。打ち込みにも付き合ってくれた。

 師匠以外の人に武術の指導を受けて良いのかなって思ったけど、当の師匠が積極的に話を聞けって言うからシュガーソルトさんの武力は余程のモノなんだろう。

 いろんな人に指導を受けて、多角的に自分の欠点を潰していくのは良いこと、なんだって。

 ただ多くの意見にふらふらして惑うのは問題だから、基幹(ベース)となるモノを1つ定め、それを補う形で意見を聞いていくようにと師匠は言った。

 それってかなり難しくないかな。

 ちょっと混乱していたけれど、師匠の教えを基本に頑張れば良いって頭を撫でてくれた。

 この頃、あまり頭を撫でられることはなかったから、ちょっと気恥ずかしい。

 照れ臭くて、そっぽを向いた。


 瞬間。

 熱量激しく『謎の気配』の昂りを感じたんだけど……

 本当に、アレは一体なんなんだろう?


 俺が首を傾げていたら、シュガーソルトさんが苦笑していた。

 なんでもあの『気配』のある辺りには、シュガーソルトさんの子供達が潜んで……って樹上に!?

 あれ結構高い位置なんだけど、放置してて良いのか?


「メイちゃんは身体能力が高いからなー……」

「……めい、ちゃん?」


 急に出てきて、びっくりした。

 シュガーソルトさんの長女が、『メイちゃん』っていうらしい。

 『メイ』って名前には、聞き覚えがある。

 だけど『メイ』って愛称は割とよくあるから、偶然かも知れない。

 だってシュガーソルトさんは馬の獣人だ。

 双子も、確か馬の獣人だった。

 ……でもあの子は違った。

 それに話に聞くと、記憶に引っ掛かった女の子とイメージが違う。

 樹上にいるのは、『長女(メイ)』が武術に興味があるから、らしい。

 俺達が修行している様子が気になって、だけどラムセス師匠が怖いから。それであそこから見物してるんだ、って。

 強くなりたいって言って、ヤンチャばかりしているけど、女の子だから心配だ――ってシュガーソルトさんは言う。


 俺の記憶にある、白い女の子は。

 べそべそと泣き虫で、おかあさんのことを心配する甘えん坊で。

 なんだか始終、ずっと必死で一所懸命な感じで。

 こっちが悲しい気持ちの時でも慰めなきゃって自然と思えるような……そんな、弱々しい印象の女の子だったから。


 守ってあげなきゃって気にさせる、白くて小さい女の子。

 それと、毎日が武勇伝なシュガーソルトさんのお嬢さん。

 父親の口から語られる武勇伝を聞けば聞くほど、俺は首を捻った。

 うん、全然印象(イメージ)が重ならない。

 やっぱり、別人……か?

 別人、だよな……。


 ……それに、何より。

 あれは『夢』だったし。

 『夢』で見たことを、現実と同一視するなんて馬鹿みたいだ。

 夢と現実を一緒にするほど、俺はもう子供じゃないし。

 また会いたいなって思ったって、前と同じ夢でも見ない限り会える筈がないんだ。

 ……でも、前と同じ夢は見たくない。

 俺は泣いて、情けなかったし。

 あの子も泣いていて、辛そうだったから。

 泣いている顔は、もう見たくない。


 所詮は『夢』の登場人物なのに。

 俺なんでこんなこと考えてるんだろう?

 あまつ、現実の中に夢の残滓を探すなんて滑稽すぎる。


 だから、勘違い。

 きっと、勘違い。

 勘違いかもしれない。

 いやいや絶対に違うはず。


 ……けど、妙に気になって、そわそわするんだ。

 絶対に違うって思うのに、『メイ』って名前だけで確かめたいって思いが湧いてくる。

 それだけ思い入れがあったんだろうか。

 こんな風に変なきっかけと、浮足立つ俺自身を前にして。

 なんだか自分で今、初めて気付いた。


 両親が実の親じゃないって知って、遠退いた気がした。

 絶対に越えられない壁が間に厚くそびえ立つ。

 それは俺がそう思い込んでいただけだったけど。

 それが思い込みだって。

 俺の気持ちが変わっただけで、信じていたものは変わらずそこにあるんだって。

 両親への思いこみと決めつけを、取り払うきっかけをくれたから。

 俺はあの子に恩めいたものを感じていて。

 お礼を言いたくって。

 その為にもまた会いたいって無意識に思っていたみたいだ。


 だから、もしかしたら会えるかもって。

 自覚なく信じていた。

 信じたいと思っていた。


 そんな自分に、『メイ』って名前ひとつで気付いた。

 気恥ずかしい。

 それに、現実に存在しない相手に思うには複雑で。

 俺はどういう顔をすれば良いのかわからなくなる。


 

 取敢えず、どうやら俺のことを遠目に観察する視線の正体は、お隣さん家に来ている女の子らしい。

 まだ、会っていない子だ。

 双子の言葉からも存在は知っていた。

 会ってみようと何度か探したけど……

 何故か、いつも避けられている気がする。

 無理強いする気はないから、そうっとしておいたんだけど。


 どうやら向こうも、俺に興味はあったみたいだ。


 それで何で避けられているのかなって、不思議ではあるけど。

 向こうにも興味があるんなら、もう1度探してみようか?

 






 メイちゃんがクラッシュしかけちゃった序章の重要ポイント

 → ヒント:『巨狼』



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