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獣人メイちゃん、ストーカーを目指します!  作者: 小林晴幸
8さい:ストーカーの大きな一歩
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9-6.探検!プロローグの村



 朝ごはんは羊乳で作ったチーズのオムレツと、白いパン。

 それからトマトサラダとリンゴ100%のフレッシュジュース。

 羊乳は収穫したバロメッツ草の羊から絞ったもの。

 だから卵以外は全部植物性の栄養素なんだって!

 ……植物性の羊って、なんなんだろ。

 何故か計り知れない矛盾を感じます。

 不思議植物バロメッツ草は、まさに神秘の植物でした。


「メイちゃん、ご飯を食べたら一緒に放牧に行かない?」

「収穫したバロメッツ草達を放牧地まで連れていくんだけど……」

「謎すぎる、バロメッツ草……あ、誘ってくれてありがとう。だけどメイ達、まだ村に来たばっかりだから」

「あ、もしかしてまだ旅の疲れが……?」

「ううん、そういう訳じゃないんだけど」


 パパの兄弟の子……昨日初めて顔を合わせた従兄達が気遣って誘ってくれたんだけどね。

 でも今日の予定は既に決定済み!

 私と双子ちゃん達は、元気に予定を告げました。


「知らないところに来たら、まずは地理を把握しなくっちゃ! だからメイ達は、今日は村の探検に出発だよ!」

「しゅっぱーつ!」

「しんこぉ!」


 ちっちゃな手をつき上げて元気に発表。

 そうしたら、何故か従兄達に頭を撫でられました。

 3人仲良く撫でこなでこと……何故に。

 でも頭を撫でられるのは大好きだから、甘んじて撫でられますともー!


「知らないところに入り込んじゃ駄目よ、メイちゃん」

「ママ、ここ知らないところだらけだよ!」

「大丈夫ですよ、マリさん。この村は平和でのどかなところですから」

「お義母様……ですけど、昨日の不審者の件もありますし」

「ふ、不審者……くはははは。マリさん、あの人は大丈夫ですよ。結構長く村にも留まってますし、顔は怖いですが、悪さなんてしたことありません」

「そうそう、村の子供たちにも慕われてるしね。見慣れない軍人さんが来たって警戒してただけみたいだから」


 ママはまだラムセス師匠のことを懸念してるみたい。

 まあ、昨日のアレを思えば心配はわからないでもない。

 不安そうにするママに、パパの兄弟達がラムセス師匠をフォローしています。

 この様子を見るに、やっぱりラムセス師匠は村で信頼されてるんだろうなぁ。

 更にはお祖父ちゃんも口を出してきて、ママの心配を晴らしてくれました。


「それに昨日の一件で、メイちゃん達がシュガーソルトの子だってのは知れ渡っとるじゃろ。うちの孫だってこともな」

「村で1番強かったシュガを怒らせようとする奴はいないって。若いのは知らないけど」

「それでも村の食料自給率で大きなところを担う、うちを怒らせたがる人はないと思うよ」

「若い奴ほど、肉が食えなくなるのは避けるだろ」


 結局お祖父ちゃんと叔父さん達の言葉が決め手になりました。

 この村で食べられているお肉の9割は、バロメッツ家が生産する『畑のお肉』に寄るとのこと。

 そんな状況でバロメッツ家の子供に意地悪をする相手もいるまいと、ママも納得。

 それでも見知らぬ環境だからこその諸注意はきっちり受けたけどね!

 お昼には1度戻ってくることを約束して、やっと出発です!

 ママは子供達が3人とも出かけることに残念そうなお顔をしてましたけど。

 でも初めて来た田舎で、子供がわくわく探検せずにいられる訳がないし。

 ここはママには諦めてもらおうっと。


「じゃ、まずは村の中を見てまわろっか」

「うん、みてまわるー」


 ユウ君は元気のいいお返事をくれました。

 内気なエリちゃんは、初めての村に気後れしちゃったのかな?

 おどおどとユウ君や私の背中に隠れて、返事をくれない。

 だけどついてくる気はあるようで、ユウ君のおててをギュッと繋いでいます。

 それじゃ、反対側の手は私が握っちゃおうっと。


「それじゃあ行こうね?」

「……うん」


 今日はちびっこ双子ちゃんも一緒だし、ゆっくり見て回ろうかな。

 憧れたゲーム内の風景。

 その中でもこの村は、序章で滅ぶのでとても貴重な場所。

 ゲームの終盤で自由に来訪出来るようになっても、荒廃しているし。

 平和でのんびりした風景を見ると切なくなります。


 ゲーム内では色々と省略されている部分もあるし。

 本音を言えば、リューク様やエステラちゃんといった主要な面々のストーキングに走りたい気持ちが無量大数(10の68乗)だけど。

 それでも下見、下準備を怠ったら完全犯罪は出来ないから!

 抜かりなさこそ、万事を上手く運ぶ最大の要素。

 私はそれを、幼馴染達から教わって育ったような気がします。

 特に、ミヒャルト。


 



   ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★



 

 朝食を食べた後は、家の手伝いをいつも通りにこなし。

 リュークが庭で飼っている鶏の小屋を掃除し終えたタイミングで、声をかけてくる小柄な姿。

 幼馴染みの女の子は、今日もいつも通りの日を過ごすものと疑っていない。

 特に約束をしていた訳ではないけれど。

 

「おはよう、リューク。今日は2人で……」

「あ、悪い。エステラ」

「え?」

「今日はお隣の子を誘いたいんだ」

「えっ」


 リュークにとってお隣の子。

 それはバロメッツ家の子供達のことだ。

 彼らは家の仕事として、羊の放牧を任されている。

 一緒に遊ぶということは、それつまり羊の放牧についていくことを指す。

 だけどエステラは、以前お気に入りだった若草色のリボンをバロメッツ家の羊にもっしゃりとやられたことがある。

 羊の唾液塗れになったのはリボンだけではない。

 一緒に髪の毛までもさもさ咀嚼されて以来、エステラは生きている羊が苦手だった。

 それはリュークも知っていることで、一緒にいる時にリュークが羊に近づこうとしたことはなかったが……


「ほら、昨日さ。バロメッツさんのとこにお孫さん達が来ただろ」

「……あの、可愛い双子のおちびちゃん達?」

「3人兄弟らしいよ。少しの間、村に滞在するんだってさ。遊ぶ相手もまだ少ないだろうし、この村のこともよく知らないだろうから誘ってみようかと思って」

「リューク、優しいね。じゃ、じゃあ私も! 女の子だったら、私も一緒にいた方が良いよ」

「そっか、そうだね。なら一緒に行こう」

「うん!」


 話が決まった2人は、その足でバロメッツ家に向かった。

 だがそこで、2人はお目当ての子供達が既に遊びに行ったことを知る。


「入れ違ったみたいだ」

「村のこと、よく知らないんだよね。迷子にならないかなぁ……」

「心配だな。ちょっと村の中を歩いてみようか」

「うん」

「それで、見慣れない子を見つけたら声をかけてみよう」


 自分達よりも、相手は小さな子達らしい。

 正確な年齢情報をバロメッツ家から仕入れた2人は、少しだけ心配そうな顔で歩き始めた。

 見慣れた、歩き慣れた村の中を。

 分かりやすい、道を辿って。





   ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆




 取敢えず、地形の把握。

 その全体像を掴んでからの方が移動はし易いよね。

 物事は俯瞰して見た方が情報も掴み易くなるし!


 ……ということで、現在。

 メイちゃんは、村の鐘楼らしきモノのてっぺんにいます!


「おお、流石に村が一望できるって壮観……!」

「おねえちゃん、ここ寒い」

「風がびゅうびゅう……怖ぃ」


 ひしっとメイの両足に掴まる双子ちゃん。

 まだ2歳のおちびちゃんに、高すぎる場所だったかな?

 村に非常事態が起きた時、鐘を鳴らして村全体に警告を発する為の場所。

 その屋根の上なんて、滅多に登れる場所じゃないよね。

 双子は怖がっているみたいだけど、村の全体図を掴むことが出来たし。

 そろそろ鐘楼から降りようかなー……


「……って、ん?」


 村の景色を一望できる場所だから、見えちゃいました。

 あれ? リューク様がお祖父ちゃんの家に何の用だろ?

 どうやら様子を見るに、用事は空振りか何かだったっぽいけど。

 首を傾げて、考えて。

 当然ありそうな展開にハッとしました。

 まさか、土地に慣れないメイ達を気遣って誘ってくれる気だった、とか?!

 確証はないけど、ゲームで見知ったリューク様だったらそのくらいの気配りはしてくれそう。

 私の勝手な思い込みかもしれないけど、1度そうかも知れないって思うと何だかどんどんそうとしか思えなくなってきた。

 それに人の流入が限られる田舎の村に、急に子供が3人もやって来たら興味を引かれるなって方が無理かも知れない。

 

 まずいことになったかも知れない。


 一緒に遊べるかも、って思ったら……そりゃ、こんなに魅力的なことはないけど。

リューク様やエステラちゃんの子供時代を……日常を、笑顔を、優しさを堪能する絶好の機会かもしれないけど!

 けど、やっぱりまずいよ。

 此処で会って、面識を持つのは避けるべきだと思う。

 折角の、凄く凄く貴重な機会、潰すのはとってもとっても惜しいけど……! 

 でも私は将来、彼らのストーカーを志す修行中の身。

 まだ未熟だけど、でもストーカーとしての矜持はあるつもり。

 

 それに何より。

 示し合せた訳でもないのに、行く先々で遭遇する女なんてレッテルを、万が一にも貼られたら……!

 そんなの、不気味なだけだもん!

 実際にそんな状況に陥って、得られる感想は「気味が悪い」か「運命を感じた」かのどっちかだと思う。

 そんな状況で運命を感じるような脳天お花畑の楽観主義を期待するのは無理がある。

 なるべく見つかるつもりはないけど、それでも不測の事態はどこにでも転がっている。

 今回の、パパの実家みたいにね!!

 今後も見つかる危険性があることを思えば、貴重な「偶然で済ませられる限度」を此処で潰すのは勿体ない。

 何事にも限度ってものがあるんだよ、うん。

 

「おねえちゃん、どうしたの?」

「あ、ううん? なんでもないよ! それより2人とも」

「なぁに?」



「今からお姉ちゃんと、『探検ごっこver.忍者』やろっか!」



 ???と。

 疑問符をいっぱいに浮かべる我が家の双子ちゃん。

 そんな可愛い可愛い弟妹を抱えて、私は鐘楼から近くの木へと飛び移りました。


「みゃぁぁぁあああっ!?」

「あはははは! おねえちゃん、もっかいもっかい!」

「将来が頼もし過ぎるぜ、ユウ君……エリちゃん、びっくりしちゃったね。ごめんね!」

「ね、ねねねね、ね、お、おねぇちゃ……っ」


 驚き過ぎて硬直してしまったエリちゃんを撫でて、宥めつつ。

 私はリューク様達に見つかることのないよう、道を外れて。

 物陰や草叢に潜みながら、村の探索を続けることにしました。

 リューク様は優しい子だったはずだから、村に不慣れな私達を案じて探し始めても不思議じゃない。

 だから、見つからない為にはその裏をかかないと!

 追っているつもりが、追いかけられる。

 見つからない最大の術は、こっちから尾行してやることだよね!


 私はそう、結論付けて。

 確認したリューク様達の現在位置から、道なりに進んだ場合の遭遇ポイントを計算。

 先回りして、物陰に潜み彼らを待つこととしました。


 別に、ね?

 うん、別にね?

 私の趣味趣向だとか、なんだとか。

 自分の都合の良い様に捉えて、言い訳混じりに願望叶えちゃおう☆なんて思ってる訳じゃないよ。本当だよ。

 だけど思いがけないことに、どうやら今日はリューク様の備考dayになりそうな予感。

 メイちゃん、張り切っちゃうよー!




道なりに進む、リューク&エステラ。

最初から道を外れて、物陰に潜むメイちゃん&双子。

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