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双子は生きて待っている

作者: さゆの

「お前正気かよ!!不老不死になるとかそんな事したら、一生生きることになるんだぞ!?死にたくても死ねない!それに生物の理を反するこの魔法は、何が代償になるか分からない。もしかしたら、心臓しか残らないことだってある事、知らないのか!お前、かなりの馬鹿!!」

「そんな事くらい知ってる!!先生達ににしつこいくらいこの魔法は絶対使うなって言われてきたもん!でも。でも!……こんなの嫌だよ!!」






 寒くて毎日のように雪の降る小さな島の王国。

 聖女に選ばれた少女は眠った。

 冷たい氷の中で。






 あるところに小さな王国があった。やっとのことで他の大きな島にある国々に国として認識され始めた頃、王様と王妃様の間に双子の男女の子が生まれた。2人共々健康児で、王に相応しい魔力を持っていた。それに合わせるかのように数日後、国内のどこかで魔力の強い女の子が生まれた。誰が見ても一目で分かった。


 聖女になる子だと。


 直ぐに親元を離され王様達のいる王宮に送られた。そして双子の王子と姫と共に聖女として、王子の婚約者として育てられた。

 少女はそれに疑問を抱くこともなく、それが普通なのだと双子と共に日々を過ごした。それはとても幸福な事だった。嫌いな勉強も3人なら楽しかったし、大人達に黙って城下に降りることも見つかった時が怖いという感情よりも今日は3人でどこを探険するんだろうという、期待でいっぱいだった。




「キャッ。にーちゃんぶつけてこないで、よっ!」

「うわっと!お前が先に雪投げてきたんだろが!」

「ガード!」

「きゃうっ!冷たいです……」

「にーちゃん、サイッテー!大丈夫?」

「ごめん!ってお前が盾にするからだろが!!」

「はあ?投げて当てたのはにーちゃんでしょ!あたしはあて「ケンカはやめてください!!」」


 ぴしゃりと言ってしまえば双子は口を閉じて大人しくなる。そして「一緒に大きな王様おとうさま王妃様おかあさまを作りましょう」と少女が笑顔でいえば、双子はお互い顔を見合わせてから少女を見て「うん!」と笑顔で大きく頷いた。

 寒い寒い一面真っ白な世界で少しずつ、でも確実に成長していく3人は久方ぶりに揃って遊んでいた。雪だまを作って投げ合う双子と雪だまを作ってそれを生き物の形に模していく少女。それは小さな頃から変わらない風景だった。この風景が壊れることがないと3人は信じていた。

 信じたかった。






「天気、変だね」


 誰が見ても一目瞭然だった。その時期はいつもなら雪が降ることは少ないはずなのに、黒い雲が空を毎日のように覆い、雪がポロポロと降っていた。

 大人達はすぐに会議を開くがそれで何かが解決することは無かった。雪は人の動きも妨げて、決まりかけていた外交も無くなったと王様は嘆いた。



「神様、怒らないで」



 聖女である少女にだけは聞こえていた。「世界と関わるな」という神様の声が。神が見えることは無かったがいつも怒りの声が聞こえていた。無感情な「壊してしまおう」という声も。




 困った少女は悩んで悩んだ末、双子に相談をした。「神は外の人間と関わる事を怒っている」「魔法は絶対に秘密」「勝手をするならこの国を壊す」といった今まで聞こえた声を少女は一生懸命双子に話していった。双子はすぐに信じて一緒にどうするかを考えた。

 双子は同時に思いつき少女の手を掴んで王様達の会議室に乗り込んだ。そして訴えた。



「神は世界と関わるなと怒ってるんだ!」

「今止めなければこの国は滅びるわ!」



 真剣な表情をした双子と少女の姿を見た王様の答えは。



「神?……こんな時に、誰だ!そんな馬鹿げたことを言い始めたのは。コイツらに吹き込んだのは誰だ!!」




 王様は家臣達は人々は忘れてしまっていた。

 この小さな国を作った神の存在を。昔々に作られたお伽話という認識に変わっていた。神はそれに気付いていたが神の耳までは届いていないため、今まで気付かないフリをしていた。

 だが今、聞こえてしまった。



 認めた人間の血族の、じぶんの存在を否定するその声を。



 空から王様達の居る城を集中的に雪が降ってきた。それは時間が経つ毎に増え、時間が経つ毎に城を埋めていった。

 王様は呆然、家臣達は「この国は終わりだ」と嘆き悲しんだ。




 少女は駆け出した。




「神様お願いします。私のこの命と魔力を貴方様に一生捧げます。だから、この国をもとに戻して下さい!」


 少女は今まで行ったことのある場所の中で1番神の声が届く場所、城の中央にあたる大広間で叫ぶように願った。 その神の答えは。



「これだけで足りると思っているのか?」



 城の扉が勝手に開き、城の中まで雪が入って来た。

 少女を追って大広間に来ていた双子は、先程までびくともしない扉が開き、チャンスだとばかりに急いで中へ、少女の傍に行こうとしたが大広間には入る事ができなかった。少女の名を叫ぶ事しか出来なかった。

 それに気付いた少女は振り返り、笑って見せた。大丈夫だと。

 真っ白な雪に埋もれていく少女、最期は冷静だった。



「私は神様の事を忘れた日はありません。違いますか?」


「……フッ、面白い。いいだろう」



 神は少女の身体を凍らせて魂だけを抜き取り、連れ去った。するとたちまち山のようにあった雪は消え去り、いつもの寒さだけが残った。






 こうして少女は眠った。

 氷の中でいつまでも。

 優しい笑顔を浮かべて。







「――こんなの嫌だよ!!イヤ、絶対イヤッ!!あたしは、あたしの何かを失っても!それでも待つよ!!何百年、何千年だって生きて待つの!!」


 双子の妹は肩で息をしながら涙で見えなくなった目元を袖で擦る。双子の兄は目をつむり両手の平を力強く握りしめて震える。



「……俺だって、俺だってあいつを待ちたいし傍に居たいんだよ!!昔っからの馴染みだとか婚約者だとかとしてじゃなくて、好きだから!いとしいから!!俺はまだ何もしてないんだよ!!」

「にー、ちゃん……」

「ここに描くぞ。陣を」




 時間をかけながら、昔話に花を咲かせながら少女が眠るその前で双子は魔法陣を描いてゆく。描き終われば同時に少女を見つめた。

 変わらない笑顔を見れば自分達の口角が自然と上がっていく事が分かった。



「代償は大きい方が叶いやすい」

「それを決めるは神。最後の勝負だ」


「「どちらが彼女と先に出会えるか」」



 双子は陣の中で涙を流しながら笑い合う。

 さあ始めよう。

 最後の生き残りを賭けた誰にも、少女以外に止めさせはしないケンカだ。






「止めなさい!お前達!!」


 閉めきっていた大広間の扉を勢いよく開けて入ってきたのは王様だった。それに続いて王妃様に家臣達が入って来た。怒った王様に悲しむ王妃様、心配や困惑の顔を浮かべた家臣達に双子は怯みながらも、手を繋ぎ王様達の方を向いて倒れそうになる身体を支える足に力を入れる。



「俺達は絶対にやめない!」

「誰よりも長く生きて、目覚めるのを待つわ!」



 普段からは想像出来ない覇気に王様を始め王妃様、家臣達も後込みをした。

 少女を救う事は叶わない。だから、戻って来る事を待ちたい。それは戻ってくるという保証が無くても、だ。



「不老不死になったとしてどうして生きていく?この国はもう王国ではなくなった。神は、ただの国にしたのだ。直に王族の存在が消えるだろう。お前達にも分かるだろう?」


「王族なんてどうでもいい!」

「そんな肩書きが無くても生きていく!」





「では、私の命を代償の一部には出来ないかしら?」



 静かに睨み合う中に、凛とした女性の声が響いた。その声の主は双子にゆっくりと近付いていった。



「私、王妃ではない自分が働くなんて想像出来ないの。だから、ね?」

「王妃、何を言っている!」



 王様だけでなく臣家達も驚き、「王妃様!」と声を上げた。それを王妃様は微笑みながら見渡す。



「元はといえば私達が、神様が私達に与えた条件を破った事が問題だったの。それをあの子は今までずっと悩んでいたのでしょうね。私にも神様の声が聞こえていたはずなのに……ダメね」



 王妃様もまた氷の中で眠る少女と同じ、聖女だった頃があった。神様の声だけが聞こえそれを信じ、崇拝していた頃があった。

 だが聖女を辞めたその日から声が聞こえなくなり、徐々に忘れていった。

 この国には神が存在し、王族が無くても廻る国。王族が存在したのは神が気に入った人間を偉いのだと、国に認識させたからだ。今はもう何も関係ない。



「もし……あの子がそれを望んでいなくとも、こんな危険な魔法をお前達はするというのか?」


「「するよ」」



 王様と双子が再度睨み合いをして数秒後。王様は大きな溜め息を吐いた。



「……では、私の命も使え。あの子に助けられた命の1つだ。私がどう使おうが勝手だろう。さっきも言ったが、王族はじきに忘れられる。王を、私を責める者も誰も居ないからな」



「王様!」「では私が!」と家臣達が止めるが王様は首を横に振り、これからの行動を止める事はなかった。



「この命で足りればいいが……後は頼んだぞ」

「大変な事かも知れないけれどお願いね?」


「父様!!」

「母様!!」



 眩しい光りが、大広間全体を包んだ。






 最後に神が奪ったものは人間と記憶。

 そして神はもう一度、神の存在を信じる誰も知らない小さな国作り上げた。







 双子は今日も夢を見る。少女が目覚めるその時を。

 双子は今日も待っている。少女が双子の名を呼ぶ、その時を。

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