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第二幕;Tell the truth



 采と氷粋は困惑した。

 社に頼まれたとおりのものを買い、社に言われたとおりの場所に来た……はずなのだが。

「ねぇ采。ここ、どう見ても防衛省の統括施設よね?」

「看板にそう書いてある。道間違えた?」

 そんな感じで立ち尽くす二人に、施設の建物の中から出てきた女性が走り寄ってきた。

「ありがとうございました!さ、入って下さい」

「あ、どうも。……って社さん!?何してるんですかこんなとこで!なんで普通に建物から出てくるんですか!」

 社はイタズラっぽく笑うと、それを今から説明するんです、と言って二人の手を引いていった。まっすぐ建物の中へ。

 ここは防衛省魔科学課統括本部。所長の名は川崎 裕之介。

 これからここで、何かが始まろうとしている。



 采や氷粋は既知のことだが、宮間 社は古典的な魔法を使う、生粋の魔女だ。

 その力の全てを戦いに向ければ、それだけで一騎当千の戦力に値するほどの。

 しかし、彼女は根っからの知識欲の人であった。

 戦いなどどうでもよく、知識の探求と三時のお茶だけが、彼女にとっての全てだった。

「私は、完全記憶能力というものを、複雑な古典魔術を用いて私自身の脳に、つまり人工的に埋め込み、人生におけるほとんど全ての魔力をその定着につぎ込みました。本来であれば睡眠によって回復できるはずの魔力を、根底から枯渇させてしまいかねないほどスレスレに」

 ポーチの中から取り出した赤いチョークで、本部の白い床をキャンパス代わりに、大きな円を描いていく。

 初見のためか、この中で唯一怪訝そうな顔の川崎に、二度目なので落ち着いている竹内。

 氷粋は何度も見てはいるが、場所が場所なだけに緊張気味だ。

 采は、チョークが接地する度に発する小気味良い音を静かに聞いている。

「最初から持ってたら良かったんですけどね……残念ながら天才じゃなかったので。 結局、魔力はギリギリ枯渇しませんでしたが、一生分のほとんど全てを失いました。知識を愛する者にとっては、それくらい安い代償なのですけれど。 殿本さん、すみませんが白チョークを」

「どうぞお嬢様」

 殿本と呼ばれた初老の男性が、白いチョークを社に手渡した。

 705号室の住人、殿本 彰久。

 社の言いつけで、いつもは隣の部屋で自由に生活しているが、出かける際の護衛など、必要な時にだけ働く、社専属の執事さんである。

 国家に利用されてもおかしくないレベルの能力を持つ社を、そういったものから隠すのが主な仕事だ。

「さて、完全記憶能力を手に入れた私は、今まで成功例が異常に少なかった、太古の難術"知識の窓"の成功時の術式を完璧に暗記しました。今描いているのが、まさにそれです」

 ただし、と言って社はチョークを置いた。

 結ってある髪先が小さく揺れる。

「この絞り滓程度の魔力では、丸々二日間分溜めないと発動できないんです。従って、使用前四十八時間の間は一度も魔法を使えません」

 ラッキーでしたね、と川崎に柔らかく笑いかけ、竹内から黒い塊を受け取る。

 謎の生命体のものと思われる、巨大な鎌の欠片だ。

 それを魔法陣の中心に添える。

「"知識の窓"は太古の秘術で、失敗すれば魔力暴走で大惨事を引き起こしますが、成功すれば、全ての魔力の源すなわち地球の中心を介して対象物にアクセスし、その記憶をある程度遡ることができます」

 失敗の経験はあるのだろうか……。

 川崎の心配をよそに、社は少し離れて魔法陣全体を眺め、何カ所かに修正を加えた。

「知識の窓によって得た情報を、私の既知の知識と組み合わせ、わかりやすい言葉で理論立てて提供する、それが……」

 ポーチと道具を魔法陣から外に出し、円の中心近くに正座する社。

「『知識屋』です」

 背筋がピンッと伸びる。

 社が赤い線に触れると、赤い線で描かれた円や模様全てが動き出した。

 続いて白、最後に少しだけ緑。

 まるでCGのように、社の周りをゆっくりと回転する。

 ケータイの登場であまり使われなくなった魔法陣式の魔法は、川崎の目には懐かしく映っているのかもしれない。

 円の中心で、社がそっと黒い欠片に触れた。

 と、途端に回転が止まる。

 数十秒ほどして、チョークで描かれた線全てが、中央の黒い欠片に収束する。

 これで、終わり。本物の魔法なんてものは、派手な演出などいらないものだ。

 社は黒い欠片から手を離すと、ポーチからウエットティッシュを取り出し、チョークの収束点を丁寧に拭き取った。

 黒い欠片を竹内に返す。

「正体の方は大体予想した通りでした。んん……ただ、この子の出で立ちの方は……ちょっと難儀しますね」

 社は川崎の方を向いた。

「この施設にどこか頑丈なところはないですか?」

 川崎は少し考え、すぐに答えを出す。

「それなら第三アリーナがいい。普段防衛魔導師の魔法訓練に使っているくらいですから、頑丈さは折り紙付きです」

 社は道具を全てポーチに仕舞うと、チャックをしっかり閉め、肩からかけ直した。

「わかりました。じゃあそこで色々と説明しましょうか、実演を交えて。采くん、氷粋ちゃん、出番ですよ」

 状況を飲み込みきれていない二人に向かって無邪気に微笑み、社はそう言った。





     ☆★☆




 だだっ広く、やけに閑散としたアリーナ。その中心部辺りに、氷粋たちに買ってこさせたブレスレット状の輪っかを置き、その中に一匹の蟻を入れる。

 蟻は、ここにくる道中に調達し、殿本の頼んで魔法で気絶させてもらったものだ。

 殿本は便利だが、戦闘力はそれほど高くない。今も席を外してもらっている。

「準備が整いました。まず、氷粋ちゃんは成長術式でこのブレスレットの中に魔力を注ぎ込んで下さい」

「あ、はい。わかりました」

「采くんはレーヴァテインの準備をお願いします」

「っ……! ……うん、了解」

 采は何故か一瞬言葉に詰まる。

 レーヴァテインは、采の武器魔法だ。

 その準備ということは、何らかの戦闘が発生することを示している。

 気にはなったが、社の、追従を許さない微笑みに、采は黙って従った。

 戦う力をほとんど持っていないはずの社だが、なんとなく敵に回すのは怖い。

 采の態度に満足げに頷いた社は最後に、残った川崎と竹内の二人に向き直った。

「あとのみなさんは私と一緒に、少し離れたところから観察しましょうか」

 それぞれが社の言葉に従い、いそいそと準備やら退避やらを始めた。

 全てをわかっているのは社ただ一人。完全に彼女のペースで話が進む。

 氷粋はスマホのロックを解除すると、フレイヤを起動、いくつかの術式を直接打ち込みつつ、ブレスレットの前に正座した。

 なんとなく蘇生術でも試すかのように見えるのは、彼女の目の前でぴくりとも動かない蟻のせいだろうか。

「送信っと」

 数秒ほどで氷粋の手の甲に『↑(☆∀☆)↑』と浮かび上がる。

 すぐに、ブレスレットに向けて微かな光が注がれ始める。

 術式の精製における誤差はほぼ全て、ケータイの方で自動的に修正してくれるシステムになっているが、厳密に言えば、対象物によって術式の細部は少々異なる。

 アプリの対象を"家のベランダの植物一つ一つ"といった風に指定登録しておけば、毎回同じ術式を最速で呼び出すことも可能だが、"蟻とブレスレット"なんて当然登録されていない。

 こういった初見のものや滅多に使わないものに関しては、直接術式を打ち込むのが最速、加えて消費魔力も最小で済むのだ。

 一方采の方は『( -ω-)っ剣』と打ち込み、ケータイそのものをピアノブラックの細長い宝剣へとアップロードする。

 ケータイ魔法は基本的に、スマホで言えばソフトウェア、ガラケーで言えばキセカエ……に設定してある『テーマ』によって、使える魔法が異なる。

 各テーマにはそれぞれ呼応するアイテムが存在し、特定の術式を打ち込むことで、ケータイ自身をその宝に変化させることができるのだ。

 采のロキで言えば、宝剣レーヴァテイン、氷粋のフレイヤで言えば、ブリシンガメンの首飾り。

 ちなみに、これはガラケー、スマホに共通する機能だが、ガラケーにおけるアプリは、スマホのそれとはかなり違う。

 スマホのアプリ=予め指定した対象に特定の術式をかけるためのショートカット……であるのに対し、ガラケーのアプリは、アプリ起動中は他の魔法は使えない代わりに、アプリ内に搭載された魔法をポンポン手軽に使える、というものだ。

 世は完全にスマホに移行しつつあるが、圧倒的にスマホの方が便利だ、とは言い切れない。少なくとも、まだ。

「氷粋ちゃんは豊穣の神フレイヤを愛用しているので、生物に対する魔術供給はお手のものなんです。 ところで、あのブレスレットみたいなの、一体何だかわかりますか?」

 社の問いに、川崎は自信なさげに答える。社への得体の知れない不安感を拭い去りきれない様子だ。

「最近噂になっているアレですか?魔力暴発を防ぐために、つけるだけでリング内の魔力の最大値に制限をかけられるという……」

「すごい!正解です!」

 社は、まるで自分のことのように嬉しそうに笑った。

「思想国家ディオニスって国があるでしょう?あのアメリカとロシアのど真ん中あたりの。 あの国からの輸入品です。ディオニスの専売特許なんですよ」

 何気ない社の言葉に、川崎が怪訝な顔を見せる。

 ディオニスは、四十年前の大規模な地殻変動が原因で生まれた小さな島の集まりで、先の第一次世界魔法大戦中に同じ思想を持つ者たちが集まって、なんとか独立を果たした国で、どこか謎めいたところのある宗教的思想国家である。

 この時代になってまで絶対王政を敷き、王を神格化しているらしいことから、一種の危ないカルト集団のようなイメージがある。正直言ってあまり良い印象は無い。

 だからって別にどうということもないし、この実験か何かに必須の情報でもないだろう、そう思った川崎は話題を変えることにした。

「……それで、あれは何をやっているんですか?」

 その漠然とした問いに、知識屋はにこにこしながら、けれど氷粋の手元から視線をそらさずに答えた。

「最大値を大幅に超えた量の魔力を無理やり注ぎ込んでいるんです。……ああ、すみません。わかりやすく言うとですね……」

 一度上の空で答えたことを詫びつつ、再度説明する。

 平然と、何でもないように。

「試しに作ってみているんですよ」

 何を、という質問は、氷粋の小さな悲鳴がかき消した。

 社は悪戯に成功した子供のようにクスリと笑う。

「あの黒い欠片の素と、似たようなものを」

 社以外のギャラリー三人の目が、一斉に氷粋の手元の"何か"を凝視した。

 これは、さっきまで小さな蟻だったものが、離れた場所からでも凝視できてしまうほどに膨れ上がっていた、ということである。

「あの……社さん!なんですか、これ!?なんか膨らんで……うわっ!えっと……」

 ぶくぶくと歪な黒い泡をたてて、内部から膨張し始めた蟻の体は、2リットルペットボトルくらいまでに、そのサイズを増していた。

 慌てふためく氷粋にゆったりと笑いかけ、社は手招きする。

「氷粋ちゃん、もういいですよ!あとは采くんに任せましょう!」

 半泣きになりながらコクコク頷いて、ギャラリー側に逃げ込む氷粋。その表情は、驚きと恐怖に青ざめていた。

「采くーん、さくっと殺っちゃって下さーい」

 社の言葉が終わるより先に、目を覚ました巨大蟻が動き出した。一メートルくらいまで膨れ上がった巨体を、細い足で器用に立て直す。

 采は呆気にとられて動けずにいた。

 混乱寸前の川崎が冷や汗をかきながら、震える声で呟く。

「おいおい……あれじゃ……」

 ぐるりと辺りを見回す大きな首に、ギロチンの如き凶暴な顎。

 三十倍なんてものではない。

「三百倍じゃないか!」

 サイズ増加が一桁も報告と違ったことに焦燥を隠せない川崎。

 防衛魔導師の司令官と言っても、所詮上から部下を動かすタイプの、実戦経験の少ないキャリア組だ。

 不格好とまではいかないまでも、その慌て方は些か滑稽ではあった。

 しかし社は、絶対的な安全圏にいるかのごとく、実に落ち着いた態度で説明を始める。

「生物に対して、上限をはるかに超えた魔力を送り込み続けると、肉体の表層に宿りきれなくなった魔力が骨髄に流れ込みます」

 巨大蟻は壊れた玩具に似た動きで首を動かし、ざっと辺りを見回す。

 コマ送りのような虫特有の動きが、見る者に生理的な嫌悪感を与えているようだった。

「上限を無理やり、例えばあのブレスレットみたいなもので強制的に押さえつけ、さらに魔力を送り込むと……ああなります」

 餌に見えたのか、それとも敵に見えたのかはわからないが、蟻は社たちの方に狙いをつけ、音もなく進撃を始めた。

 氷粋は完全にへたり込んで逃げ腰、川崎と竹内も青い顔で三歩ほど後ずさっているが、社だけは涼しい顔で迫ってくる蟻を見据えている。

 蟻の速度は速く、数十メートルの距離はぐんぐん詰められてゆく。

「あの、万が一のことを考えて助けてくれると……ぇ?采くん?」

 社はポカンと口を開けた。

 視線の先、それどころか、見回した先のどこにも、采はいなかったのだ。

 巨大蟻は、社たちまであと十メートルほどのところで一時停止する。

 真ん中の脚が一本パキッと折れたことに、不思議そうに首を傾げて少しの間立ち止まっていたが、すぐにまた動き出した。

 あと八メートル。

 ペキッ!脚が一本折れるが、蟻はもう気にしない。何が何でも目的地に辿り着く意志があるらしい。

 社の笑顔が凍りつき、心なしか顔が青い。

 あと五メートル。

 パキポキッ!蟻はもはや脚ではなく、勢いで動いている。

 あと三メートル弱。

 ベキッ!半分腹滑り状態、それでも狂ったように顎を動かし、止まらない。

 社が尻餅をつく。いつもの大人っぽく柔らかい笑みは消え、今にも泣き出しかねない子供のような顔をしていた。初めて人に見せる表情だ、とか思っている場合ではない。

 あと一メートル。社はとうとう耐えきれなかった。

「ごめんなさい助けて嫌嫌嫌嫌ぁあああああっ!」

 絶叫と共に泣き出す社に、大きな顎の先が触れ――ピタッ、と止まった。

「ひゃぅあっ!?」

 がしゃがしゃと顎のハサミを動かし、必死に体を前に進めようともがく蟻に、社が飛び退く。

 虫の奇妙な動きに対する嫌悪感は、社も同じらしい。

 巨大蟻は、地面に縫い付けられたようにそこから動かない。

 と、気のない声が蟻の向こうから聞こえた。

「あらかじめ内容を話さなかった罰だから。こういうのはちゃんと先に言っとけって、社さん」

 蟻がとうとう力尽き、ガクッと体を沈ませると同時に、触角の先から灰となる。

 蟻の向こう側にいた采の姿が、それによって明らかになっていく。

 采は、細く枝分かれした黒い剣を地面に突き立てて立っていた。白い床に黒い剣、なんとなく芸術性を帯びている気がする。

 どうやらあれを蟻のお尻あたりに刺して、地面に縫いつけていたらしい。

「……レーヴァテイン、その名の冠すりゅ意味は"災いの小枝"。剣先を枝分かれさすて伸ばひたんですね、采きゅん。さしゅがです」

 絞り出した賛辞は、社にしては珍しくめちゃくちゃに噛みまくったものだった。

 采はため息を一つつく。

 嫌な汗を拭う川崎と竹内。

 みんなの後ろで、涙目の氷粋が小さく「おうちかえる」と呟いた。







     ☆★☆



「どういうこと……ですか」

 小さなに待合室に、氷粋の震え声が響く。

 社は黙ったまま、申し訳無さそうに小さく俯いた。

「なんで……なんで采が行かなきゃいけないんですか」

 静かな怒りに震える氷粋を、采が横からなだめる。

「ひーちゃん、防衛魔導師の出動には防衛省の上層部からの許可がいる。いかに有力な情報であっても、民間人の意見だけじゃ国家権力は動かない」

 納得させるのは不可能だとわかってはいる。それでもどうにかしなくてはいけない。

「それに、例え既に政府内に情報が行き渡っていたとしても、国家間のやりとりは慎重にならざるを得ない。 警察も通報があってからじゃないと動かないし、どっちにしろ間に合わないんだ」

 社曰く、あの黒い巨大生物は暴国ディオニスからの攻撃であるそうだ。

 なるほど、ディオニスは魔力制限アクセサリーの技術において専売特許を持っている。 製作者以上にその特性を熟知した者もいないだろう。

 応用してあんな怪物を作り出したのか、はたまた最初からそれが目的だったのか。

 他組織による技術解析、転用の可能性も考えられるが、社が経緯を辿ったのだからほぼ間違いはない。

 つまり、これは日本とディオニスの国交問題に関係する深刻な事態だ。あるいは戦争に発展しかねないほどの。

「だからって采が行かなくたって……」

「川崎さんには既にお願いしてありますが、望みは薄いです。 事情を知った上で、私の言葉を信用してくれる方、そしてその絶対条件に加えて黒い巨大生物に太刀打ちできる人、となると采くんぐらいしか……」

 社は声は段々小さくなる。その声には、もっと手の打ちようがあったかもしれない、という反省や後悔の念が混じっていた。

「……采、私は許さないわよ。いくら社さんのお願いでも、聞けません。下手すれば命の危険があるんでしょう? 采を危険にさらすわけにはいかないんです。保護者として」

 その意志を曲げる気はない。曲げるわけにはいかない。曲げたくない。

 保護者の任を預かる者としての義務と責任もあるが、そんな口実とは関係なく、采を失うかもしれないことがどうしようもなく怖かった。

 氷粋の決意の目を見て諦めたのか、采は彼女をソファに座らせ、優しくその手に触れた。

「ひーちゃん、なんで狛が部活やってるか知ってる?」

「ちょ、采!今そんなこと話してる場合じゃ」

「いいから。なんでだと思う?」

「なんでって……」

「狛は馬鹿だけど、休日まで部活行って、なんの理由もなくひーちゃんに負担をかけるようなことはしない」

「ん……まあ……確かに」

 采の左手の人差し指が一定のリズムで手の甲を叩く。母が子をあやすような緩やかなリズムで。

「あれでも狛は俺に気を使ってくれてんの」

「それって……どういう……って、さい?」

 気付くと、いつの間にか瞼が重い。

 体が心地良い熱を帯び、頭が働かなくなってきていた。

 これは……睡魔?

「ごめんね、ひーちゃん」

「さい……あ……んた、なに……を」

 自分の異変に気づいた氷粋は重い体を動かして、空いている方の手をなんとかポケットに伸ばすが、そこにあるはずのスマホはなかった。

 そうしている間にも、襲い来る睡魔が感覚や思考力を片っ端から奪い取っていく。

「別に誰かが行かなきゃとか、そういうこと考えてるわけじゃない」

「さ、ぃ!」

「国と国だとか戦争だとか、そんな難しいことも知らないし」

「だ……めっ!」

「後先も考えんのめんどくさいし」

「……ゃめ……」

「邪魔だからちょっとぶっ飛ばしてくるだけ」

「や……だぁ……」

 瞼はもうほとんど開かない。目の前の微笑が霞んで見える。

 辛うじて伸ばしかけた手は、采の左手に優しく押さえ込まれ、一緒くたに抱き締められてしまった。

「だからさ、ちょっと行ってくる」

 弱々しい抵抗はやがて脱力へと変わる。

 熱っぽく潤んだ瞳が瞼の陰に隠されてゆく

「………………しゃ……」

 とうとう意識が落ちたらしい。ことん、と氷粋の頭が力なく垂れ下がった。

 黙って見ていた社が、やはり申し訳無さそうに問う。

「いいんですか?警察か防衛魔導師が動くまでの間とはいえ、本当に命の危険も……」

 背中に隠していたもう一方の手の甲には『( ρω-)』という紫色の簡易術式が浮かび上がっている。

「"シーフのうたた寝"……狡猾な知神ロキは、トールの妻シーフが寝ている間に彼女の金髪を奪い去ったという……」

 肌の接触によって作用し、即効性が無い分気付かれにくく防御されにくい、いたずら好きのロキ特有の魔法だ。

 采は無表情に自嘲する。

「嵌り役だよな、狡猾って。ひーちゃんはトールにはあげないけど」

 頭を切り替えるようにパッと立ち上がり、社の方を向く。

「行こう、社さん。もうそんなに時間はないんでしょ?」

「……ええ、そうですね。でも……」

 社は儚げに笑いかける。

「私が言うのもなんですけど、絶対に帰ってきてあげてくださいね」

 答えの代わりに、采はケータイの電話口に耳を当てた。

 現在時刻19時02分。予測時刻まで、あと50分――。









     ☆★☆



 虫の音一つない静寂の中、采はまだ明るい夜空を見上げた。

 夏の天球は華やかだ。デネブ、アルタイル、ベガの三星が空の暗幕にに大きな三角形を刻み、小さな星々がその周りを彩る。

 景観を遮る雲もここには無く、満天の星空が「これでもか」と言わんばかりに輝いていた。

 しばらくすると、采は今度は下を見下ろした。

 白い靄の切れ目から見える人工の星たちが、はるか下の大地で騒がしく煌めいている。

 天然の輝きとは異なるが、揺れ動く光はなんだか生き物のようで、また別な面白味があった。

 上と下。天球と地球。

 ふっと吐く息が白く凍り付く。

 采は今、高度四十二,七八キロメートル、日本国魔導防壁限界点の一キロ下あたりに、ぽつんと浮かんでいた。

 地学的には成層圏上部にあたり、周囲の気温は摂氏三十度前後。

 対象者の周囲三十センチを常に適温に保つ魔法"アポロンの寝所"がなければ、とっくに冷凍ミイラ死体になっているところだ。

 社の知り合いの力を借り、医術や弓術や太陽を司る古代ギリシャの神アポロンの魔法をかけてもらった上で、采はここに浮かんでいるのだった。

 浮遊魔法も殿本によるもので、采のロキにそんな便利な魔法は存在しない。

 こうして社の人脈を考えると、つくづく敵に回したくない存在だと実感する。

「いくらアポロンが弓術の神とは言え、人一人をここまで正確に飛ばすって……」

 防壁内より一ミリでも外に出れば、あらゆる魔法が瞬時に分断され、地上の世界へ真っ逆さまだ。

 対象者を目的の場所まで高速で撃ち飛ばす魔法"太陽弓"。

 単純で便利な術のようにも思えるが、なにしろ制御が難しく、その上摩擦熱を逃がす魔法を同時に併用しないと対象が消し炭になってしまうため、かなりの難術として知られている。

 魔法のくせしてファンタジー性の欠片もない話だが、現実はご都合主義ほど甘くない。

 采は、このアポロンの術者である温厚そうな青年のことを思い出していた。今頃ここより四十二,七八キロほど下にいるであろう、銀髪で黒縁の眼鏡をかけた青年だ。

 見たところ自分より年齢は二つ三つほど上らしい感じがした。

 事情があるとかで、黒いローブですっぽりと体を覆い隠していたが、かなりの術者であることは間違いない。

 思わず呟いてしまう。

「あの人が直接戦えばいいんじゃねーの」

 それができないのも、その事情とやらのせいだとは説明を受けたが、しかし。どうしても思わずにはいられない。

 とは言え、来てしまったものは仕方がない。何も考えずにぶっ飛ばすだけである。

 覚悟を決めた上で再び空を見上げた采は、明らかに嫌そうな顔をした。

 どこからともなく現れた黒い巨大カマキリの軍勢が、防壁を覆うように取り付き、立ち往生し始めたのだ。

『( -ω-)っ剣』

「うげ、気色悪……」

 武器化しつつ緊張感のない声で呟く。

 事実、今から緊張する必要は無い。まだ。

 そしてそのまま約三分が経過する。

 突然、采は一つ大きく息を吐くと、真上をしっかり見据えた。

「来た」

 ただの直感。しかし、同時だった。

 空を覆い尽くしていた黒いカマキリたちが、次々と爆散し始める。

 黒い無機物のような体が内部から弾け飛び、残らず灰と化す。

 魔力に髄まで侵された者の活動限界。

 小さな蟻に無計画に魔力を注ぎ込めば、耐えられなくなった肉体は一分と保たず崩壊を始める。しかし、十分な実験の上、適度な量の超過魔力を、蟻よりもずっと体の大きなカマキリに注げば?

 二時間くらい保っても何ら不思議はない。

「今日送ってきたこいつらは失敗作かな?五分と保ってねーし。 ああ、でも関係ないか。どっちにしろブラフだもんな」

 緊張感を高め、レーヴァテインを強く握りしめる。

「やっぱ社さんは怖ぇ」

 本当によく当たる予言だこと。

 彼女の推測通りのものが、そこにあった。

 曰く、最初の虫は熱源を隠すためのカモフラージュでしかないと。

 采は通じるとも分からない人語を用いて話しかける。

「アンタは崩壊まで何時間くらい保つんだろうな」

 恐らく魔導兵器の一種の完成系、魔力暴走生物――人型。

 大きさは全長五メートルほどだが、不自然に盛り上がった筋肉や有り得ない箇所に伸びた骨、そして浮力を生み出す異形の羽が禍々しさを引き上げている。

 黒く硬質な全身は、血管だったものがそこら中に浮き出ており、頭蓋骨が異様に変形していた。

「そろそろ独り言にも飽きてきたし、お喋りでもしない?」

 ゴヴァアアアアアアアッ!!

 悪魔、としか形容し得ない怪物は、返事の代わりに耳をつんざく砲喉を一つあげる。

 固められた拳は、弱体化した防壁を一撃のもとに打ち破った。

 先の見えない戦いが、人知れず始まる。






 激しい火花が散った。魔法製の物体同士がぶつかり合った際に生まれる、黒い火花だ。

 レーヴァテインで巨人の脇腹を斬り抜け、その先に見える、翼と呼ぶのに相応しくない異形の羽をかいくぐる。

 借り物の『ヘルメスの空靴』の能力を使って、あるはずのない空気の壁を蹴り、反転してすぐさま斬り込む。

 鬱陶しそうに振り抜かれる剛腕を屈んで回避。そのまま大きく跳躍し、顎から眉間にかけて斬り上げつつ、一撃離脱。

 空気の壁を蹴って即座にその場を離れる。

 靴のおかげで、地上と同じように戦えるのは大きい。

 どれくらいの強さで踏み込めば"床"を精製してくれるのかもわかってきた。

 しかし、二つほど問題が残る。

(刃が全然通らねー)

 追撃を避けるように空気の階段を駆け上がり、追って掴みかかってきた巨大な手のひらを袈裟斬りにする。

 キィンッ!

 やはり刃は通らなかった。

 巨人の硬質な黒い肌は悉く刃を弾き、黒い火花を散らすのみである。

 今まで浴びせた二十太刀余りのうち、ダメージというダメージを与えられたのはたったの一~二撃程度だ。

(顔への攻撃はリスクが高いからなぁ……)

 ちらつき始めた疲労感を振り払い、采は巨人がギリギリ届かない距離に身を引いた。

 もう一つの問題は、時間にあった。

 警察にしろ防衛魔導士にしろ、応援が到着するまで、采は一人だ。

 圧倒的な暴力を伴った拳が、レーヴァテインの鎬を削る。

 分の悪い消耗戦。

 勝つ必要がないこと、上空で足止めするだけでいいことが、唯一の救いとも言える。

 采は再度突き出された拳を避け、伸びきった腕に軽やかに飛び乗った。

 血管の張った黒い筋肉を駆け上り、ドロリと黄色い眼球に突きを放つ。

 しかしその一撃も、反射で閉じた瞼によって阻まれた。

「あぁもう!人体って便利だなぁっ!」

 毒づきつつ、滑って反れた剣の勢いをねじ伏せ、頭のてっぺんに飛び乗る。

 采を払い除けようとしたのだろうか、巨人の平手は見事に外れ、巨人自身の側頭部を思いっきりひっぱたくことになった。

 よろける黒い巨体。

 その隙に采は頭頂から飛び降り、床を創って肩の高さあたりで着地する。

「馬鹿で――」

 レーヴァテインを大きく振りかぶり、

「助かったぁっ!」

 頸椎にズブリと突き立てる。今度ははっきりと手応えがあった。

 巨人だって元は人間だ。頸椎ならさすがにダメージが通るはず。

 采の読みはあたっていた。

 しかし……この一撃が、逆に状況を悪化させた。。

 まだ痛覚が生きていたのだろうか。

 ヴォオオオオオオオオオオオオオッ!

 狂ったように、けたたましい雄叫びをあげた巨人が、その場でがむしゃらに暴れ回ったのだ。

 空気を震撼させる咆哮が采の耳をつんざき、聴力を奪い去る。

 采は必死に食らいつき、夢中で剣を引き抜いた。

 思ったよりも深々と刺さっていたらしい。なんとか引き抜くことには成功するが、勢いで体勢が崩れ、体は自由落下を始める。

 運悪く、そこを羽が打った。

「っぐぁ……っ!」

 軽く10メートルほど弾き飛ばされ、少し遅れて衝撃が体を襲った。

 肋骨あたりにひびが入ったらしい。呼吸の度に、刺すような鋭い痛みを感じる。

「ちっくしょ……うおぅっ!?」

 左脇腹を押さえながら、目前に迫る巨大ラリアットを慌てて避ける。髪を何本か持っていかれた。

 さっきと比べて格段に速い。

 猛り狂った巨人は、固めた拳を勢いよく振り抜いた。

 采は再び剣の鎬で受け流す。が、反撃には出られなかった。腕が動かない。

(見誤った!)

 重い風圧と、未だ回復しきらない聴力のせいか、距離感を僅かに見誤ったらしい。

 剣を握る手がビリビリと痺れて、落とさないようにするのが精一杯だ。

 采は苦渋の表情を浮かべた。

 既に一歩踏み込んでしまっている。

 巨人がもう一方の手で拳を固めるのが見えた。

 采の体は凍りついたように動かない。頭も働かない。

 スローモーションのようだった。

 迫る真っ黒な拳。押しのけられる風。目前に迫る危機。実感の湧かない死。恐怖。後悔。自責。鼓動。痛み。そして――

 メキィッ!

 歪な音をたてて何かがめり込み、次の瞬間、巨人の視界から采の姿が消えた。

 違う。視界から消えたのは巨人の黒い影の方だった。

 采の視界から、巨人が消えたのだ。カラフルな玉の色、アートな残像を残して。

「ヒーローは遅れて登場するんだぜ」

 背中に小さな翼の生えた少年は、アーティスティックなハンマーを肩に担ぎ、吹き飛ばされた巨人を一瞥すると、にやりと笑う。

 その背後で、彼の恋人;呉竹(くれたけ)水衣(みい)が翼の生えた犬に跨がったまま、苦笑を浮かべた。

 少年はなんだか嬉しそうに、ハンマーを手元でクルクルと振り回す。

「覚悟しろよ?デカブツ! 三人揃えば文殊も血へ、だ!」

 物騒な慣用句を勝手に作り上げつつ、狛は反撃の狼煙を上げる。

 采が「遅ぇよ」と小さく呟いた。



     ☆★☆




 水衣が、翼の生えた犬の式神『羽犬』を操り、心配そうに近寄ってきた。

「采くん、大丈夫……?」

「みぃ、痛み止めの術符とかってある?」

「ある。ちょっと待ってて……」 羽犬の上でせっせとスマホを操作し始める水衣を、采は改めて見つめる。

 背は低く、黒のショートヘア。仕草がなんとなく小動物を思わせる。

 可愛らしい顔立ちだが、性別関係なくモテる狛の彼女にしては、少し地味かもしれない。明るく快活な狛とは逆に、表情の起伏も少ない。

「あ、あった」

 小さく呟くと、水衣はスマホの画面に赤い五芒星をなぞった。次いでカメラを起動し、采の脇腹にフォーカスを当てる。

「ここで……あってる?」

「うん、あってる」

 カシャッ!

 シャッター音と共に、采の脇腹に五芒星が浮かび上がり、赤く発光する。と同時に、鋭い痛みが嘘のようにスーッと消えていった。

 スマホ上の符に付加された効力を対象に写し入れる魔法『天沙(てんしゃ)』。

 最近初めてスマホ生産に乗り出したケータイ会社『初流com』専用の、ちょっと変わったソフトウェア『陰陽道』の術式だ。

 自身が戦うというよりは、術符での援護や式符での簡易召喚を専門とする。

「薬符・芙蓉峰の膏薬。ホントにただの一時的な痛み止めだから……あんまり無理しちゃ……ダメ」

「了解。ありがとう」

 水衣は微かに頷くと、羽犬に指示を出し、戦場から離れていった。

 自分が直接的な戦闘を得意としないこと、一緒に戦ったところで狛の足を引っ張ってしまうことを、よくわかっているのだろう。

 絶対に足手まといにならない。それが彼女の性格だ。

 狛がハンマー、ミョルニルで巨人に一撃を入れ、采のそばまで後退してきた。

 空中では衝撃を叩きつける場所がないため、決定的なダメージは与えられていないが、心なしかさっきより巨人の体がヘコんでいる気がする。

「最高だろー?俺の彼女」

「お前の人を見る眼には感心するよ。いつもテキトーな癖に」

 采は適度な賛辞を返しつつ、レーヴァテインの武器化を解いた。

 それを見た狛がニヤリと愉快に笑う。

「あと5分ちょっとで応援が来るって。さて問題、どういう意味でしょうか?」

 采は、ガラケーのアプリのボタンを長押しした。「英雄社」製のガラケーでは、アプリケーションのショートカット起動コマンドにあたる。

「5分もいらない。壁さえあれば、3分で充分」

 短く答える采の頭に、白銀の獣耳がヒョコッと生えた。

 外見の可愛らしい変化に伴い、周囲の空気がギシギシと音を立てて軋む。

 体勢を立て直していた巨人は、本能的に何かを感じ取ったのか、軽く身構えた。

「つーわけで狛、壁頼んだ」

「はいな!」

 それを合図に、采は空気の床を蹴った。

 パリンッ!

 精製された空気の床が、圧力に耐えきれず破砕する。

 采の行動は実に単純だった。

 殴る。拳を固めて、ただ一発殴る。

 さっきまでびくともしなかった巨人の体が一気にふっ飛んだ。

 巨体が途中で何かに激突する。狛のミョルニルだった。いつの間にか後ろに回り込んでいたらしい。

 メリメリッと巨人の頭がひしゃげる。

 巨人は叫び声をあげようとしたが、ダメージのために、奇妙な呻きにしかならなかい。

「最初っからこれ使えてたら良かったんだけどさー」

 必殺キックを出し惜しむ特撮ヒーローを思い浮かべながら采は、よろめく巨人の顎を容赦なく蹴り上げた。

 ふっ飛んだ巨体が、またも先回りした狛のミョルニルに激突。少し遅れて破壊的な衝撃が襲う。

 なんとなく、ヒーローというより滅茶苦茶強い悪役に近い気がする。

 実際、ロキ系統の身体強化系アプリケーション"フェンリル"は、北欧神話における悪役、世界を終わらせる大狼をもとに製作されたガラケー世代のアプリだ。

 その圧倒的な威力に、国から配信ストップが下ったレアもので、数少ない取得者もスマホへの乗り換えと共に手放すことを余儀なくされた。

「衝撃を受けてくれるものがないと効かないんだよね。おまけに魔力消費多いし」

 誰に向けるでもない弁明をこぼしつつ、黒い体をたて続けに五~六回引っ掻く。ミョルニルに押し付ける形で。

 大狼の爪は、レーヴァテインでも貫けなかった硬質の肌を、割と簡単に切り裂く。

 まるで、いじめっ子といじめられっ子が逆転したような構図だった。

「燃費が最悪だから短期決戦型なのさ。それこそどこぞの特撮ヒーローみたいに」

 采は巨人の顎を両手でひっつかむと、上に向かってぶん投げた。

 常軌を逸したパワーに、為す術無く跳ね上がる巨体。

 入れ替わるように狛がミョルニルを思いっきり振りかぶり、上へと飛んだ。

「みぃ、雷!」

 狛が言い終わるよりも速く、微弱な電気を纏った一匹の狐が天を駆け上り、ミョルニルに飛び込んだ。

 増幅された雷によって、雷神トールの鎚が強く帯電する。

「くらえ、恋するハートのビリビリ!」

 恥ずかしげもなく言い放ち、天上に投げ出された悪魔にミョルニルを叩き込む。

「AEDインパクトっ!」

 ヴギャアアアアアアアアアアッ!

 黒い巨人は、雷神の鉄槌と強烈な電撃を受け、断末魔の叫びと共に爆散した。

 そのビリビリが恋によるものだったのかどうかは、ともかく――。



 一分後、現場に到着した防衛魔導士たちは、ボーナス請求という愉快な文字を跡形もなく忘れ、青い顔で神に祈ったという。

 司令官の言葉を信じず、そのせいで到着が遅れた上に、民間人によってことを片付けられてしまうとはなんたる失態。批判と説教に吹きさらしの生活は勘弁してほしい、と。

 とはいえ、彼らに祈られた神が、彼ら自身のケータイの中から何か良いことをもたらしてくれるとは、到底思えなかった。









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