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 リウォールは焦っていた。

 自分の不用意な発言のせいで、フェディが苦しい立場に陥ることになりかねない。

 急いで止めなければ。

 そんな思いで必死にウルトの後を追いかけた。


「何故ヤツの足はこうも速いんだ」


 そんなことをぼやきながら。




 一方その頃。

 フェディは自分に与えられた執務室で書類の整理に追われていた。

 だが昨日、リウォールと一緒に飲んで自分の鬱屈したことを話したおかげで、多少は気が晴れたらしく、いつもより仕事に励むつもりでペンをとり書類に向かっていた。

 そのとき。

 扉が乱暴に開かれたのである。

 驚いたフェディが顔を上げると、そこには兄であるウルトの姿が。

 フェディは、いつもとは違う彼の様子に戸惑いを隠せずにいた。

「兄上、一体何の用でここにいらしたんですか?」

 部屋に入ってきたウルトはフェディの前に立つと、何も言わずしばらくじっと彼の顔を見つめていた。

 そんな兄の態度に何故か不安を覚えたフェディは、さらに何かを言おうと言葉を発しかけたとき、遠くから「待て、早まるな」などと言いながら誰かが走ってくる音がすることに気付いた。

 声からしてリウォールとわかったのだが、その言葉はどういう意味なのか。

 一体なにがあったんだ?

 これがフェディの今の心境だった。

 そんな時それまで何も言わずじっとフェディを見ていたウルトは、突然フェディの肩をがっしりと掴むとこう宣言した。

「今日からお前が国王になれ!」

「はぁ?」

 フェディはこの言葉がとっさに理解できず、間抜けな返事を返す。


 ずざざざざざぁぁぁ…………!!!


 一方リウォールの方はといえば、全力疾走している途中でこの言葉を聞き、驚きのあまり足を滑らせそのままこけて滑ってしまっていた。

「あ、あの。一体何を言っているんですか?」

 フェディとしては至極当然の質問だろう。

 この質問に、ウルトは喜々として答えた。

「お前は王位が欲しいんだろ。だから、お前にやるといっているんだ。いや~、これで全ての問題は解決だ。じゃ、後はよろしく」

 勝手に話を完結させ、早々に立ち去ろうとするウルトを、二人はあわてて止めた。

「何が解決したんだ!」

「そうです。一体どういう意味なんですか。それに突然そんなことを言われても国民が納得しませんよ」

 早々に立ち去りたかったウルトだったが、二人のこの剣幕に足を止めるしかなかった。この状態のまま放って置くと捜索願でも出されかねなかったからだ。

「馬鹿なことを言っていないで、早々に部屋に戻れ!」

 リウォールの怒ったような言葉に返事を返すことなく、逆にこういった。

「豪快に滑ったな。見事な滑りっぷりだったぞ」

 そんな笑いながらの一言に、リウォールは「ほっとけ」と一言。

「そうです。兄上は国王なんですよ。それに、何故突然こんなことを言い出すんですか?」

「突然じゃないぞ。以前から考えていたことだ。俺なんかよりよっぽど国王が似合っているお前に押し付け……もとい、譲りたいと思っていたんだ。だが、望んでいないのであればただ迷惑なだけだ。だからリウォールには相談ついでに何か情報を持ってきてくれないかと期待していたんだが、予想以上の収穫だったよ」

 その言葉にリウォールは焦りの表情を浮かべ、そっと視線をフェディに移すと案の定、彼ににらまれていた。

「お前は全てのことに真剣に取り組んでいる。お前ならこの国をさらによい国にできるだろう」

 こんな突飛な考え方をするウルトでも、この国にとって一番いいことは何なのか、真剣に考えていたのだろう。

 考えた上での行動なのだろうが、あまりにも唐突過ぎる。

「では、兄上はぼくに王位を譲った後、何をなさる気なんですか?」

「ん?いや、旅に出るさ。自由気ままな旅に」


 頭が痛くなってきた。

 このときフェディとリウォール、二人の思いは同じであった。


「という訳で、俺は病気か何かで死んだことにしといてくれ。じゃ、後はよろしく!!」

 ウルトはそう宣言すると二人の隙をついて、扉からではなく窓から飛び出していった。

「兄上!?」

「ちょ、待て!ウルト!!」

 しばし呆然としていたフェディは、つぶやくようにこういった。

「……後始末は、ぼくがするんですか」

 この言葉に、同じように立ち尽くしていたリウォールは呆れた表情を浮かべながら言った。

「……だろうな。やれやれ、最後の最後に極めつけな土産を残していってくれたな」


 二人は苦笑しながらも、これからするべきことに頭を悩ませつつも行動を起こすべく、動き始めた。



 一方。

「しっかりやれよ、二人とも」

 そんな二人の心境を知ってか知らずか。

 ウルトはそんな無責任な呟きを残し、王宮を後にした。




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