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「で、どうなんだい?」
なんだか腹の探り合いのようだな。
これはお互いの感想だった。
ウルトに呼び出されてから、リウォールはずっとこう言っていた。
「長老の処断をどうなされますか?」と。
現在リウォールがウルトの執務室に着いてから、小一時間が経過していた。
リウォールは報告する代わりに、昨日フェディに聞いた一部の長老の悪事を報告したのである。
だがウルトとしては一番聞きたいのはそんなことではなかった。
ま、長老達の処断はどうしようかとも頭の片隅辺りで考えてはいたが、それ以上に聞きたいことが彼にはあった。
弟がどう思っているのかどうか。
ただその一つ。それだけを聞きたかったのである。
一方リウォールとしてもかなり真面目な話、その長老達の行動は腹に据えかねていた。
とっととその足を引っ張るばかりの長老達には、早々に退場してもらいたい思いでいっぱいだ。その中に私情がないと言えば嘘になる。
こっちも色々と被害にあっているからなぁ、あの一部の頑固なぼんくらジジイどもには。
通りすがりに時折嫌味を投げかけてくるのとか。
「陛下の側付きですと、仕事が楽でいいですな」とか「その腕前を腐らせておく陛下も陛下ですな」とか。
ああ、知らないって幸せなんだなぁ、ってしみじみ思ったよな。
この国一番の剣の腕前と言われるリウォールだが、その彼を倒すほどの腕前を誇るウルトを机に縛り付けて腐らせようとしている張本人達にこそ、あのウルトの鬱憤晴らしの剣の相手を頼みたいものだ。
薄皮一枚一枚を削ぐかのような鋭い切り込みに、冷や汗を流しながらも剣の相手を続けるのを楽な仕事と言えるのなら、正直代わってもらいたい。
そしてにっこり笑って感想を聞いてやりたい。どうでした、と。
嫌味を言われるたびにリウォールは、あの剣の前に突き出してやりたいなぁ、と考えその後の展開を考えて溜飲を下げていた。
「で、どうするんですか」
リウォールのその言葉に、どれ程時間を経過しようともどちらも引く様子は無い。
それを察したウルトは、今回は諦めたほうがいいな、と考え溜息を一つ。
そんなウルトの様子に、リウォールはこの不真面目国王!と内心罵っていた。
「はいはい、わかりましたよ。国庫着服腹黒無能長老勢には一斉退去願うことにしますよ」
あまりにもやる気の無い言葉に、リウォールは思わず言ってしまった。
「お前、あまりにもやる気が無さ過ぎるぞ!これならフェディが言ったように、あいつが国王になった方がマシだぞ!!」
リウォールのその言葉を聞くや、ウルトのやる気無さは一変した。
「何!?」
「あ、いや。それは酒の席での戯言……」
ウルトのあまりの変わり様に、リウォールもさすがにまずいことを言ったと慌てて弁明の言葉を口にしようとした瞬間。
ウルトは身軽に執務机を飛び越え、部屋の外へと飛び出した。
「は?あっ!ちょ、ちょっと待て!!」
あまりの出来事に思わず固まってしまったが、どう考えてもこれはただ事では無い。
突然部屋を飛び出したウルトの様子に、リウォールは焦りを覚えた。
自分のうかつな発言が、この兄弟に不穏な影を落としたかと思うとどうしようもないほど自分の行動を呪いたくもなっていた。
だがこのままほおって置いても、よくないことは確かだ。
リウォールは急いでウルトの後を追い部屋を飛び出した。
……そして走りながらリウォールは思った。
何であいつ、あんなに足が速いんだ、と。
絶対ほとんどの日常を、机にかじりついていた人間の脚力ではない。
などと考えている間にも彼の姿を見失いそうになる。急がなければ。