3
わたしの名前はフェディ・エムフェト・ラングスターレ。
この国の国王の弟で、そして政治の一端を担っている。
政治の世界は、国王の弟だからといって甘く見てくれるような場所ではない。むしろ厳しく見られる。
「ここ最近元気が無いが、一体どうしたんだ」
心配そうにこう聞いてきてくれたのは、親友のリウォールだった。
兄さんじゃないが、確かにあのやかましい上に頑固なジジイどもの相手をするのは、正直かなり嫌だ。
兄さんの場合、全部石頭だと決めてかかっているけど、あの頑固一徹に見える中でも一部の者達は自分達をそれなりに思ってくれている人がいることも知っている。だから、完全には嫌うことはできなかった。……例外はやっぱりあるけど。
そう。
確かに、ここ最近悩みはある。
うかつに上司の耳に入れば、不敬罪として処断されてもおかしくないような悩みだった。
そもそもあの頑固に過去の栄光にしがみついているバカの一派が、なかなか資金を出そうと言わないことも一端を担っているのだ。
ある公共施設を作りたいのだが、その資金を出すことに否を唱え続けている。適当な言い訳を色々考えて。
おまけにこれは偶然知ったことなのだが、彼らが一部の国庫の資金を自分の懐に入れている、なんて腹立たしい事実も頭痛の種だ。
どう対処しようにも、新参者である自分がこのバカ者たちを処断するには、もう少し年月を経なければ無理な話なのである。
身分としては王弟、と言っても仕事の上では新参者。一応実力主義なので、王の血族、という事に関しては重きを置かれていなかった。
一方あちらは古参なうえ、この世界ではそれなりに力を振るっているものばかり。
たとえ彼らの悪行を告発したとしても、その事実はもみ消され、さらにそんなことを言った自分も消されることだろう。
一応国王の弟をそんなに簡単に処断はできないだろうが、おそらく着服していたのは他の人物なんだが、そういう風に仕向けたのは自分だったとか何とかと言いくるめて、死刑に持っていかれるんだろうな。
いっそのことなら国王なんて地位が自分にあれば、一切をうまく切り取ってやるのに。
というよりは、奴らに一度痛い目にあって貰いたいんだよね。……色々といってくれているみたいだから。
な~んて不穏なことを考えたりして、気を紛らわせたりしてみたりしているのだが。
うまく隠しきれなかったようだ。
彼に気付かれた、ということは……。
数日後。
リウォールと久しぶりに一緒に飲みに行った。
どれくらいぶりだろうか、こんな風に一緒に飲みにきたのは。
この日は、日ごろの疲れもたまっていたせいもあってか、酒の回りも早かった。
それ以上に鬱憤がたまりにたまりすぎていた。
そのせいで、うっかりと口を滑らせてしまったのだ。
国王の地位がもしあれば、あのぼんくらジジイどもの首を刎ねることも容易いだろうなぁ、などなど。
他の人が聞いた場合、即牢獄行きになるのだろうが、幸い相手は勝手知ったるリウォールだ。冗談半分として聞き流してくれた。
むしろ同情してもくれたともいえるだろう。
というか、彼の方も色々と影で言われているようなんで、今回お互いの愚痴を言い合ったのである。
その後分かれるとき、愚痴りあったおかげで幾分気分がすっきりとしていた。そのときに、今回のことはウルトには黙っている、とリウォールは約束してくれた。
だからホッとしていた。
だがこのうかつな発言が、後にあんなことを引き起こすとは、今の彼は知らない……。