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私の名前はウルト・ギルティス・トライエント・ラングスターレ。
長い名前だと自分でもそう思う。
十八……いや、もうすぐ十九歳になるか。
職業は一応このトゥエル国の国王だ。
去年、父王が突然病の為亡くなったので王位を継ぐことになった。今は一歳年下の弟と親友の助けを借りながら、日々忙しく働いている。
年若いと言われながらも何とかこの一年、なけなしの知識もろもろを駆使し政治を支えてきた。慣れぬ外交などもそんな気配をおくびにも出さず、笑ってやり過ごしたこともある。
国民はそんな私を立派な王だと称えた。
称えてくれたんだが……。
な~にが、立派だ。
ったく、王になって何が楽しいってんだ。
基本は常に猫をかぶり続けなきゃならんときた。
おまけに毎度毎度同じような書類整理と雑務に追われ続け、自分の時間がほとんど持てない。
せめての自由時間といえば、睡眠時間と食事の時間。その時間もここ最近減ってきたような気がするが……気のせいではないだろう。
なんだかんだといって、色々と業務が増えてきていたからな。
その上、頭でっかちのぼんくらジジイどもは毎度同じ事を繰り返し、俺が若いと侮って懐柔し操ろうと必死なやつらもいる。
いい加減、この状況にうんざりだ。
本音を言えば、だ。
自由に剣を振り回し用心棒のようなことをしながら生計を立てて旅をする。そういう生活に憧れていた。
まだ今ほど自由が制限される前の話だ。
何度か城を抜け出し弟と親友と一緒に、ちょっとした旅のような真似事をしていたのだが、そちらの生活のほうがよほど向いていたと自分でも思う。
こうやって机にかじりついて仕事をするよりは、体を動かすほうが断然よかった。
……ああ、あの自由な日々。懐かしいなぁ……。
だが現実がそれを許してはくれなかった。
馬鹿な先祖の決め事だとかで、長兄が跡継ぎだとさ。けっ。
詳細は忘れたが、何代か前の国王が亡くなったときに、兄弟で争いがあったとか何とかで、そんな争いを避けるためにこんな決まりを作ったらしい。理由は理解できん事も無いが、納得は出来ない。
俺にはなぜそこまでして王位が欲しいのか、さっぱり分からん。
そもそも、この仕事にどんな魅力があるっていうんだ?
数ある行事には必ず顔を出さなければいけない。どれほどくだらない行事でも、だ。
まあ、それは最初のうちだけだろう。
新人国王は顔を売らなければならないからな。必死になりたくも無いが、ならなければいけないことらしい。……面倒くせえっ。
さらには、腹黒そうな奴らにもどんなに嫌でも無理やり笑いかけなければいけない。いや、貴族なんて生き物は腹に一物抱えている、っていうのが基本スキルだから、腹黒そうな、ではなく腹黒集団でいいか。
まあ、笑っていれば大抵の物事はそれでごまかせる。笑いすぎて顔の筋肉が引きつる、という欠点もあるが。
一部、笑いながらぶちこ……うにゃうにゃ……と思うような人間や事象も多々あることはあるんだが、それはとりあえず何とか隠すことには成功していると思う。ストレス解消の意味も込めて笑顔の下で相当物騒なことを考えて気を紛らわせてるが、それは相手には内緒だ。
その他には、ジジイどもと予算などについて議論ばかり。奴らは年のとりすぎで、頭まで化石みたいだし。ついでにいえば一部……いや、ほとんどのジジイはやたらと過去にこだわるんだよな。
伝統だからとか何とか色々理由付けして、うるさいったら無い。
だからちっとも進歩しないんだよ、この国は。
こんな生活続けていたら、俺は将来確実に若くして過労か心労で死ぬぞ。
はああああぁぁぁぁ……。
こんな日々を過ごしているのである。盛大なため息が一つや二つ、三つ出ても仕方が無いだろう。
こういった仕事が得意なのは弟のはずなんだがなぁ…………。
………………ん?
(……窓の外を眺めながら考え中…………!)
……………………ふっふっふっふっふ。
なぜこんなにも簡単な事に気がつかなかったんだ。
これほどまでに完璧な解決策が目の前に転がっていたというのに。
頭をめまぐるしく回転させ、考えをまとめ始めた。
その日の午後。
国王の執務室から怪しげな含み笑い声が聞こえていたのを、その前を通った何人もの人が恐ろしいものでも聞くかのようにそそくさと通り過ぎていたのは別の話だ。
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