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自殺屋  作者: 桶十芭
9/29

Case2-3+規約

少女が自殺屋に出会ってから一週間が何事もなく過ぎた。

しかし、一日も少女の頭の中を自殺屋のことが離れない。

   

少女はまた今日もカウンセリングに向かっていた。

歩いている間も、ずっと脳内で店の男の声が渦巻く。

耳の奥に残る、低い声。名前を呼ばれたときの、恐怖。

思い出すだけで冷や汗が出てくる。

下を向いて歩いていた少女は、道に立っていた誰かにぶつかった。

「あ、ごめんなさい。」

「いえ…おや。」

顔を上げて驚愕した。そこに立っていたのは、あの男だったのだ。

焦って周りを見回すと、いつの間にかそこはあの店のある路地だった。

賑やかだった街は、どこにもない。

「どうして…」

「いらっしゃいませ。またお会いできるとは。」

「来たくて来たんじゃありません!…帰ります。」

「お待ちください。やはり貴女は自殺を考えていらっしゃるようですね。」

きっぱりと言われて、少女は男に言い返した。

「そんなこと考えてません!私は自殺なんかしない!」

「試してみますか。」

男は呟いてすっと少女の目に手を当てた。

そして、にこりと笑う。

次の瞬間、少女の目の前が真っ暗になった。次に見えた映像は、カウンセリングの部屋。

そこに、少女がいる。

椅子の上に立ち、輪にした紐を顎の下にかけ  椅子を蹴った。

   

がくんと全身の力が抜けて、少女は男に抱きとめられた。

「貴女が自殺するのが見えましたか。」

「な、何…今の…」

「見えたのなら、それは貴女が自殺をする日です。…今とそんなに歳が変わらなかったでしょう。」

「な…」

「どうでしょう。騙されたと思って店を借りてみませんか。」

優しく男が言うのに、少女は断るのが難しくなってきた。

しぶしぶと頷き、男に連れられ店へと足を踏み入れる。

一歩入った瞬間、この間と同じ感覚に襲われる。

店の男はつかつかとカウンターの中へ行き、椅子に座った。

少女もゆっくりとカウンターの前に立つ。

「前にも話しましたが、貴女のような人は多いのです。最初は皆さん店を借りるのを拒みますが、段々と慣れますよ。」

男は言いながらカウンターの上にカードを出した。

することもなくて下がったままの少女の右手を引き、乗せる。

「貴女の名前を思い浮かべてください。」

言われた通りにするとカードに少女の名前がじっくりと浮かび上がる。赤いカードに、しろ抜きの文字。

少女は驚きと恐怖で目を見開いた。

はっきりと少女の名前がカードに記されると、男は少女の震える手から自分の手を離し、椅子に座り直した。

「さて、ここにあまり長居するのは気が向かないでしょうから、手短にこの店を借りる上での諸注意をお話し致しましょう。まず、この店の本は貸し出し用です。もっとも買いたいと言う方はあまりいませんが…一応。本は一度に何冊借りても構いません。一冊でも十冊でも、必ず返して頂ければ。本を借りる時は左上から順に借りてください。一冊でも飛ばすことのないようお願い致します。読む時は一文字も飛ばさないでください。よろしいですか、一文字も、です。それから…この店のことは誰にも話さないでください。ああ、あとそのカードはなくさない様気を付けてください。このくらいです。何かご質問はございますか。」

手短なのかと思ってしまうほど男の説明は少女にとって長かった。

頭の中で懸命に今話されたことを振り返りつつ、頷く。

話されたことの中に疑問に思うことはいくつかあった。

特に、一文字も飛ばさずに読まなければならないということ。

そんなことどう調べるのかと思ったが、この男の言うことは信じなければならない気がした。

「大丈夫…です。」

「そうですか。何か疑問点がございましたら、いつでも答えますので。くれぐれもお守り頂きますようお願い致します。さぁ、今日は何冊借りて行きますか。」



「ただいま…」

少女はバックに二冊の分厚い本を入れて帰宅した。

誰もいない家の玄関を開け、靴を乱暴に脱いでリビングに入る。

冷蔵庫から適当に飲み物を出し、ソファに落ち着いた。

しばらく見ていた一冊目の本を手に取り表紙を開く。

そこで、すっかり城田のところに行き忘れたことに気付いた。

連絡をしようと携帯に手を出すが、また後でもいいかと思い直し、本に目を戻した。

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