Case2-2+図
男が向かっていったのは、小さな古びた店であった。
どこか周りと違う雰囲気の店がぽつりとそこにある。男は擦り硝子の引き戸をカラカラと開けて中へ入った。
少女がゆっくり近付いて行くと、入り口のすぐ近くに店と同じ様に古びた看板が置いてあった。
その看板には"自殺屋"と表記されている。
見たことのないその名前に、少女は首を傾げる。ただわかるのは、ここが普通の店ではないこと。
看板の前で止まってしまった少女に、男は手招きをした。
「どうかなさいましたか。道、聞かなくてよろしいのですか。」
「あ、ごめんなさい…」
少女は扉の敷居の手前で一度戸惑ってから意を決して店に一歩足を踏み入れた。
途端にぞわぞわと足の方から体を何かが這い回った様な感覚。
少女は一気に青ざめた。心臓がおかしな速さで鼓動する。
恐い。ただそう思うことしか出来なかった。
「どうぞ座って下さい。」
男が椅子を出し、少女をカウンターの前に座らせた。
本当ならばすぐにでも逃げ出したいのに、体は男の言うことに従ってしまう。
少女は恐怖のあまり声さえも出せなかった。
自分はこれからどうなってしまうのか、色々な考えが頭の中を巡る。
どれも良い考えではないが。
「さて」
男がカウンターの上に紙を出した音で、少女の肩がびくりと跳ねた。手の震えが止まらない。
その少女を横目に、男は筆ですらすらと紙に地図を書き始めた。
紙の上で、筆は迷うことなく店から少女の家に辿り着く。
「この道が一番早いはずです。」
男から手渡された地図をしばらく見て、少女はおかしなことに気付いた。
この男には家の場所どころか名前すら教えていないのだ。
「え…な、なんで…」
「貴女のような人のことは聞かなくてもわかってしまうのですよ。自殺を考えている人のことはね。 さん。」
男はにこやかに少女の名前を言い当てた。
決して有りきたりな名前ではない。たとえよく有る名前だとしても、当てずっぽうで当てられるものではない。
少女の体を、どんどん恐怖と不安が埋めていく。
「そんなに怯えないで。安心してください。ストーカーなどではないですから。」
にこりと笑いながら、男が少女の肩に触れる。
少女は自分の後ろに立った男をばっと振り返った。
「わ…私自殺なんか…」
生きることに意味を感じたことはないが、自殺を考えたこともない。男の言葉は理解できなかった。
「貴女自身気付いていないだけです。自殺を考えていないようで考えている方はこの世にたくさんいらっしゃいます。気付かないうちに自殺をしていた、なんて方は少なくないのですよ。」
少女はかたかたと震えながら首を必死で横に振った。
そして地図を握りしめ、店を飛び出す。男は扉の向こうでもう一度恐る恐る自分を振り返った少女にぺこりとお辞儀をした。
「お気をつけておかえりください。」
そのなんでもない一言が、酷く怖かった。
10分ほど走った所に少女の家はあった。
あの店はなんだったのだろう。
握りしめた地図をゆっくりと開く。
しかし、そこには店の場所は記されておらず、真っ白な紙面が少女を笑っていた。