Case1-6+別
「こんにちは。」
「いらっしゃいませ。」
すでに青年となった少年が店を訪れた。
店の男と親しそうに挨拶を交わし、本を返す。
「また、貸してください。」
「ええ、どうぞ。おや、もうすぐ貴方が借りた本が三千冊になりますね。」
男の言葉を聞いて青年は驚いた。そんなに本を読んだ気はしないのだ。
しかし実際月日は三年経っていた。
「さあ、こちらへどうぞ。」
男が青年を店の奥へと促す。青年は黙って男の後ろをついていった。
しばらく歩くと、ずっと長く続いていた本棚の終わりが見えてきた。
男が振り返り、青年に笑いかける。
「実は、次の本が最後の本なのです。」
そう言って、一冊の本を取り出した。
三年間読み続けてきた中には一冊も無かった、白い表紙の本。
その表紙にはなんの文字も書かれていない。そして今までの本とは比べ物にならないほど薄い。これが最後の本だといわれると、なんだか拍子抜けな気がしなくもない。
「さあ、最後に聞きましょう。もう、自殺をしようという気持ちはございませんか。」
男の問いに、青年は力強くうなずいた。その瞳に、もう絶望は無い。
「そうですか。それはよかった。生きるって楽しいでしょう。どうか生きてください。貴方の人生にはまだまだ喜びが満ちているはずです。」
男は本を差し出す。
「カードを出してください。」
言われて、青年はポケットからカードを取り出した。
「そのカードとこの本を交換すれば、この店は貴方から返却されたことになります。長い間、ご利用誠にありがとうございました。」
言いながら、深々と頭を下げる。
「あの、また…会えますか。」
青年が尋ねたのに、男は首を横に振った。
「いいえ、貴方にはもうこの店は必要ありませんから。ですが…そうですね、貴方がまた『大凶』を引いてしまった時にもう一度お会いしましょうか。」
青年は一度カードを出すのを躊躇してから、顔を上げこくりと頷いた。
差し出したカードを男が受け取り、代わりに本を渡す。
そして、また笑った。
その顔は、青年が生きてきた中で最も優しい笑顔だった。
「それでは、お元気で。ありがとうございました。」
もう一度男が頭を下げたと同時に、青年の意識は途切れた。
*************
「あなた、あなた起きて。こんなところでうたた寝しないでよ。」
「ん…あれ?ここは何処…?僕は今…何歳?」
「何を言っているの?あなたは今26歳でしょう。それに僕だなんて…寝ぼけているの?」
「ああ…ごめん、なんでもないよ。……夢だ。」
「パパ!遊ぼう!」
「よし、おいで。」
どうでしょう。
自殺屋がどんな店なのかわかっていただけたでしょうか。
こんな店が存在するのです。
どこにあるか、ですか?
さあ、どこでしょうね。
最後の本の中身?
さあ、何が書いてあるのでしょうね。
教えてほしいですか?
それはあなたが自殺屋に出会えた時に自分の目で確認してください。
自殺屋はいつでもあなたのことをお待ちしております。
いえいえ、もちろん自殺など考えないほうがよろしいのですが。
何か苦しくなったとき、この店を思い出してください。
きっとあなたとお会いできると思います。
おや、お客様がいらっしゃいましたね。
今度の方は最後まで生きられますかね。
では。
Case1+end
一部終了です。
思った以上に時間がかかってしまいました。
すみません。