Last Case-2+絶望
男が霊安室で眠る少女を呆然と見つめていると、部屋の扉が突然勢いよく開いた。
入ってきたのは、少女の母親。
相当急いできたらしく、息が荒い。娘が交通事故で命を落としたと聞けば、当然だろうが。
男は母親の顔を見ずに立ち上がり、深く頭を下げた。
「申し訳ありません。俺の過失です。」
その男の横をすり抜け、母親は少女に駆け寄った。
床に膝をつき、横たわった体を抱きかかえる。
しばらくそのまま泣いていた母親が、立ち上がって男に掴みかかった。
男は俯いたまま女の顔を見ようとしない。
「どうしてっ…どうしてこんな歳で死ななければならないの!返してっ……娘を返してよ!!」
激しく自分を責めるその声が、あの時の妻の声にかぶって、男は顔を上げた。
そして、絶句。
そこにあったのは、確かに歳はとったが、変わらず整った妻の顔。
女も男に気付き、目を見開いた。
「あなた…」
そして男は、女の向こうで静かに眠る少女を見た。
顔に触れ、思う。
―――嗚呼、そういえばよく似ている。―――
どこかで幸せに暮らしていたはずの愛しい娘を、自分が殺してしまった。
どうかいつまでも続くようにと願った娘の幸せを、自分が奪った。
絶望と恐怖が一気に男を襲った。
がたがたと体が震えだし、男はその場に座り込む。
あんなにも会いたいと願った娘が、変わり果てた姿で目の前にいる。
「あ……ああぁあああぁぁあぁ…!!!」
暗い部屋の中に、男の叫び声が響いた。