Last Case-1+男
最終章の始まりです。
ずっと昔の古い話。
随分と昔の話です。
一人の男が公園のベンチに座っていた。
男が見つめる先には、小さな赤ん坊とその赤ん坊を抱える女の姿。
女は男に気付き、にこりと笑って手を振った。
男も同じようにして返す。
二人は夫婦であった。
誰が見ても羨むような、仲の良い美男美女の夫婦。
二人は、一つの小さな幸せを手に入れ、日々満たされながら生きていた。
それが崩れ落ちたのは赤ん坊が生まれて二年後のこと。
二人の幸せな日々は、些細な、そしてありがちな争いで脆く儚く散ってしまった。
まだ小さかった子供にとって、母親というのは、切り離せない存在であった。
男は、泣く泣く愛しいわが子との関係を断ち切るしかなかった。
何年経っても子供に会うことは許されず、男は一人で生きていた。
瞼の裏の子供は、可愛らしい赤ん坊のまま。
今どこで何をしているのか、男には想像もつかない。
元妻の家にプレゼントを送っても、全て宛先不明で男へと返ってきてしまった。
出来ることならば手放したくなかった幸せ。
なぜ妻の過ちをあんなにも叱咤してしまったのか。それが自分の過ちだったのではないかと、男は自分を責めた。
誰にも話すことも出来ず、男は苦しみ続けた。
それから二年。
男はただ生きていた。
何の目的もなく、明日生きることだけを考えながら。
彼の仕事はトラックの運転手。転々と職業を変えた結果、そこに落ち着いたのだった。
冬、夕暮れ時の交差点を曲がろうとハンドルを切った。
刹那、どん、と鈍い音がした。
次いで、聞いたことも無いぐしゃりという音。
やってしまった。
何をぶつけたのか、轢いてしまったのか、見なくても男にはわかった。
人を、轢いてしまった。
背筋をぞくぞくと寒気が駆け抜けて、一気に男の体が震えだした。
はっと我に返り、急いでトラックから飛び降りる。
タイヤの下に無残に潰されていたのは、少女。
白い肌に、赤黒い大量の鮮血がよく映えた。
セーラー服は、ほとんど元の色をなくしていた。
見開いた目が、自分をじっと見ている気がした。
次の更新も出来るだけ早めにしたいと思っています。
どうぞ最後までお付き合いください。