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自殺屋  作者: 桶十芭
26/29

Last Case-1+男

最終章の始まりです。

ずっと昔の古い話。

随分と昔の話です。

   

   

一人の男が公園のベンチに座っていた。

男が見つめる先には、小さな赤ん坊とその赤ん坊を抱える女の姿。

女は男に気付き、にこりと笑って手を振った。

男も同じようにして返す。

二人は夫婦であった。

誰が見ても羨むような、仲の良い美男美女の夫婦。

二人は、一つの小さな幸せを手に入れ、日々満たされながら生きていた。

それが崩れ落ちたのは赤ん坊が生まれて二年後のこと。

二人の幸せな日々は、些細な、そしてありがちな争いで脆く儚く散ってしまった。

まだ小さかった子供にとって、母親というのは、切り離せない存在であった。

男は、泣く泣く愛しいわが子との関係を断ち切るしかなかった。

   

何年経っても子供に会うことは許されず、男は一人で生きていた。

瞼の裏の子供は、可愛らしい赤ん坊のまま。

今どこで何をしているのか、男には想像もつかない。

元妻の家にプレゼントを送っても、全て宛先不明で男へと返ってきてしまった。

出来ることならば手放したくなかった幸せ。

なぜ妻の過ちをあんなにも叱咤してしまったのか。それが自分の過ちだったのではないかと、男は自分を責めた。

誰にも話すことも出来ず、男は苦しみ続けた。

   

それから二年。

男はただ生きていた。

何の目的もなく、明日生きることだけを考えながら。

彼の仕事はトラックの運転手。転々と職業を変えた結果、そこに落ち着いたのだった。

冬、夕暮れ時の交差点を曲がろうとハンドルを切った。

刹那、どん、と鈍い音がした。

次いで、聞いたことも無いぐしゃりという音。

   

やってしまった。

   

何をぶつけたのか、轢いてしまったのか、見なくても男にはわかった。

   

人を、轢いてしまった。

   

背筋をぞくぞくと寒気が駆け抜けて、一気に男の体が震えだした。

はっと我に返り、急いでトラックから飛び降りる。

タイヤの下に無残に潰されていたのは、少女。

白い肌に、赤黒い大量の鮮血がよく映えた。

セーラー服は、ほとんど元の色をなくしていた。

見開いた目が、自分をじっと見ている気がした。

次の更新も出来るだけ早めにしたいと思っています。

どうぞ最後までお付き合いください。

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