Case4-2+苦
青年が自殺屋を訪れ、三日。青年は仕事を辞め、治療に専念することを決めた。
また、自殺屋に通うためでもある。
「いらっしゃいませ。」
店を再び訪れた青年に、男は笑顔で挨拶をした。
青年の手には、透明のカードと、二冊の本。
「本を読むの、慣れてなくて……二冊読むのに三日もかかってしまいました。」
「段々と慣れます。期限はございませんし、ゆっくり読んでくださって構いませんよ。」
男は常に優しい口調で話しかける。
そのためか、こんな薄暗く怪しい店でも、青年にとって居心地が良い気がした。
「あの、これから本を読みきるまでは、この店で本を読んでもいいですか。」
青年の問いかけに、男は少し意外そうな顔をした。
「構いませんが、借りて帰ってくださって良いのですよ?」
「いえ……ここはなんだか落ち着くし、家で一人で読んでいたら、自分が何をするかわからないし…それに、あなたと沢山話してみたいんです。」
「私と、ですか?」
「はい。駄目ですか…?」
落ち込んだ様子を見て、男は楽しそうに笑った。
「いえいえ、よろしいですよ。私でよければ、話相手になりましょう。どうぞここで読んでいってください。」
自殺屋を居心地いいなどと言ったのは、今まで何人もの人間が訪れた中で、この青年だけであった。
大抵の人間は最初、自殺屋の雰囲気を恐れ、本を借りる時以外は立ち寄らない。
二度目の来訪だというのに、青年は自殺屋を恐れることなく、居心地いいとさえ感じた。
そして何よりも、この男と色々な話をしてみたいと強く思っていた。
それを、男は酷く嬉しく思った。
「こんにちは。暑いですね。」
まるで行きつけの居酒屋にでもよるような口ぶりで、青年が自殺屋を訪れた。
「そうですね、体調など崩してはいませんか。」
男も、同じように何気ない言葉を返す。
青年は相変わらず少しだけ顔が青白い。腕には細い血管が浮き出し、無数の注射痕が残っている。
「……薬をやめてから、あまり体調がよくないんです。それと……夢を見るんです。」
「どのような夢ですか。」
「大勢の人に、追われる夢です。周りにいる人の目が、全て俺を睨んでいる気がする。体が震えて、立てなくなる。座り込んだ俺を、皆が上から見下ろしているんです。お前は駄目な人間だ、と。」
ぽつりぽつりと話す青年を、男は黙って見つめていた。
青年が背中を丸めて自分の体を抱きしめるようにその場に座り込んでしまう。
その体をそっと立たせ、ソファに座らせる。
たった数分の間に、顔色が土気色に変わった。
「苦しいでしょう、辛いでしょう。ですが、貴方はそれを越えなければなりません。それが正しい道へ戻るための、貴方への試練なのです。」
男は小さな声で青年を宥めながら、背中を擦る。
「………一人の女性の話を致しましょうか。体を横たえてくださっても構いません。辛くない体勢で聞いていてください。」
男は向かいの椅子に戻り、腰を下ろす。
そして、口を開いた。