表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自殺屋  作者: 桶十芭
19/29

Case3-7+別

少年が自殺屋を借りて八年もの月日が経過した。

十八歳だった少年も、すでに二十六歳という立派な大人になっていた。

しかし、少年は未だに自殺屋の本を読んでいる。

借りた本はすでに二万冊を超えた。

しかし、後半のほうは真面目に読んでいない本が多かった。

一体この店の本はいつになったら読み終わるのだろうか。

少年はほとほと嫌になり始めていた。

いくら読んでも終わりが見えない。

そのことを聞いてみようと、少年は店を訪れた。

「こんにちは。」

「ああ、いらっしゃいませ。」

この店主は、八年も経つというのに少しも変わっていない。

雰囲気も、外見も。

まるで歳をとっていない。

「……あの」

しばらく男を眺めていた少年は、口を開いた。

「この店の本、いつになったら読み終わるんですか。八年も借りていて終わらないなんて、どうかしてます。いい加減店を返したいんですけど。」

その言葉を聞いて、少しの間のあと、男は「ああ。」と気付いたように少年を見た。

その口から出た言葉は。

「この店の本、終わりませんよ。」

信じられない一言だった。

今までここに通いつめ、全て本を借りようとしてきた自分は一体なんだったのだろうか。

そう思うと、男に対する怒りが腹の底から湧いてきた。

かっとなって、男に掴みかかる。

「どういうことですか!俺は一体何の為にここの本を今まで読んできたんですか!」

「自殺のことが知りたかったのではないのですか。」

男は少年の手をぱしんと振り払い、椅子に座りなおした。

「きちんと本を読んでくださらない方に、この店の最後の本はお見せできません。あなたがしてきたことは、今まで自殺をしてきた方の人生を侮辱することですよ。」

「………っ!知ってたんですか…でも、だったら言ってくれてもいいじゃないですか!」

「言いましたよ、最初に。興味本位で借りることは薦めないと。規約のことも言いました。飛ばさないで読んでくださいと。」

自分を睨んだ男の目が、人間以外の何かのものに感じられた。

恐怖で足ががくがくと震える。

「私は同じ忠告は二度致しません。私を、規約を信用しなかったあなたが悪いのです。……残念ですね。あなたにはこんな風になって頂きたくありませんでした。」

男はそういい残すと、呆然と立ち尽くす少年を残し、店の奥へ入っていった。

   

自殺屋の本を読みきることはできない。

老人になった自分が、自殺屋の本に埋め尽くされる悪夢を、連日見続けていた。

夜中にうなされ、何度も目が覚める。

仕事に集中できるわけもなく、解雇される始末。

少年は、いや、青年は親にも見離され、途方に暮れていた。

いくら逃げても眠ればあの夢が自分を追い詰める。

こんな苦しみを味わうくらいならば、自殺屋などに出会わないほうがよかった。

ふらふらと街の中を彷徨する。

意識などないに等しかった。

車通りの激しい道の歩道に立ち、行き交う車をぼうっと眺めていた。

ふらりと足がその車のほうに向かっていたことに気付くことなく、青年は走ってきたトラックに衝突した。

そして、何が起きたのかを理解する間もなく、命を、絶った。

   

「なあ、あいつ自殺したんだって?」

「え、本当に!?」

「ふらふら道に飛び出したらしいよ。でもあいつ、もう高校卒業した頃から廃人に近かったらしいじゃん。自殺考えてたんじゃないの?」

「えー。高校の時はそんなこと絶対しなそうな人だったのにね!」

   

少年の高校の同級生の同窓会では、数分間だけこんな会話がされていた。

   

   

   

Case3+end

第三部終了です。これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ