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自殺屋  作者: 桶十芭
18/29

Case3-6+破

酷く気持ちが落ち込んでいた。苛々もしていた。

一ヶ月ほど前に行った模擬試験の結果がよくなかったことを、担任の教師に咎められたのだ。

「最近居眠りも増えて、生活自体が狂っているんじゃないのか。」

そんな風に言われて、これまでにないほど苛立っている。

生活が乱れているのは事実なのだが、それが自殺屋の本の為だとは口が裂けても言えない。

そんなことを言えば、頭がおかしくなったのではないかと思われてしまう。

それに、規約のこともある。

しかし正直、規約など半ばどうでもよくなっていた。

どれもこれも、調べようのない規約ばかりなのだ。

誰かに話そうが、文字を飛ばして読もうが一体それをどう調べるというのか。

少し馬鹿馬鹿しく思えた。

むしゃくしゃしていたから余計そう思ったのだろう。

家に帰ってきた少年は、鞄を乱暴に壁に投げつけ、ベッドに体を沈めた。

枕元に置いてあった本が目に入る。

少年はそれを手に取り、しおりを挟んでおいたページを開いた。

読んであるのは百二十四ページの八行目まで。

本当ならば九行目から読まなければならない。

「……馬鹿馬鹿しい!こんなの時間かけて読んでられないよ!」

ぱらぱらと適当にページを飛ばし、二百ページを開いた。

その一行目から読み進める。

別に物語ではなく、一個人の自殺理由が書き連ねてあるだけなので、飛ばしても支障はない。

自殺に対する興味というよりは、少年の気持ちは本を読みきることだけに向いていた。

それが、この少年の運命を変えてしまった。

   

「こんばんは。」

深夜二時に、少年が店を訪れた。

カウンターで本を読んでいた店主が顔を上げる。

「いらっしゃいませ。」

少年は男の前に本を八冊置いた。

「十冊貸してください。」

少年がそう言うと、男はその顔をまじまじと見て、すっと立ち上がった。

カウンターから出て、少年とすれ違う。

「わかりました。そこでお待ちください。今度からは私が本を棚からお持ち致します。十冊、ですね。」

少年がこくりと頷いたのを目の端で確認して、男は店の奥へと消えた。

数分して戻ってきた男の手には、十冊の本が抱かれていた。

「重いですよ。大丈夫ですか。」

「大丈夫です。」

少年は男の様子を窺いながら本を受け取る。

特にいつもと変わったところはない。

やはりあんな規約はたんなる脅しだったのだろうか。

よくよく考えれば数ページ飛ばしたくらいで何があるというのか。

本当に馬鹿馬鹿しい。

「……また来ます。」

「はい、お気をつけて。」

少年は本を抱えて帰宅した。

男がその背中を見送り、カウンターに戻る。

すると床に少年のカードが落ちていた。

「おや。」

しゃがんで拾うと、それは真ん中から真二つに割れてしまった。

手に持っていなかったほうの欠片が、床にぱたりと落ちる。

それを見て、男は悲しそうな顔をした。

「やはり…駄目でしたね。」

そして、そのカードをカウンターの引き出しにしまい、店の扉を閉めた。

自殺屋の看板が、風に揺られてキィと不気味な音を立てた。

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