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自殺屋  作者: 桶十芭
14/29

Case3-2+再

少年が自殺屋の店主に出会ってから一週間が過ぎようとしていた。

少年は、学校の帰りに何度も店主と出会った付近をうろうろと徘徊した。

それでも、彼の姿はどこにも無い。もう会えないのだろうかと諦めかけていた。

しかし今日は違った。

いつもと同じように同じ道を歩いていると、人一人がやっと通れるくらいの細い路地を見つけた。

路地というよりは建物の隙間という感じである。

こんなところに道などあっただろうかと疑問に思い、悩んだ末に少年は路地の奥へと歩を進めた。

段々と路地は広くなり、やがてT字路に当たった。

現代の日本にこんなところがあったのかと驚いてしまうような景色だった。

数件の古びた住宅が並び、人気がない。

家の扉は、ガラス張りの引き戸がほとんどである。

なんだか怖くなり、引き返そうと振り返った。

そして少年は更に驚く。

先ほど通って来た筈の道が、跡形も無く消えてしまっていた。

あまりの恐怖と不安に、少年は自分の周りだけ重力が増したような感覚に襲われた。

足がまるで玩具になってしまったように動かない。

おそらく顔色は最悪だろう。本当に血の気が引くとはこういうことかと、十八年生きてきて初めて知った。

もう二度と家に、自分の生きていた世界に帰れないのだろうかと、少年はこの場所に踏み入ったことを人生で一番後悔した。

自殺屋などというおかしな店を追ったのがよくなかったのだろうか。

あの男の言うとおり、関わらないほうが良かったのかもしれない。

少年がどうすることも出来ずに壁を見つめたまま立ち尽くしていると、後ろから誰かが肩をぽんぽんと軽く叩いた。

一瞬恐怖で体が竦むが、意を決して振り返る。

するとそこには、一週間ほど前に出会った、自分が探していた男が立っていた。

先日会ったときと変わらぬ姿、雰囲気で。

「ああ、あなたですか。また会ってしまいましたね。こんなところで何をなさっているのですか?」

少々呆れたような笑みを浮かべ、男は少年に問うた。

やはり来ないほうがよかったのだろうかと少年は申し訳なく思いながら、嘘をつくのは良くないだろうと思い、自分が自殺屋を探していたことを正直に話した。

すると男は羽織っているだけの着物をひらりと羽織直し、少年に背を向けた。

「わかりました、ついてきてください。すぐそこです。」

少年の顔を見ずにそう言うと、すたすたと歩き出す。

だいぶ戸惑ってはいたが、こんなところで立っていてもしょうがないと、少年は自分を置いて歩いて行く男の後ろを急いで追いかけた。

   

数十メートル歩いたところにその店は黙って佇んでいた。

周りの住宅と同じようなガラス張りの引き戸は薄暗い店内を覗かせている。

店の前には古びた看板があり、そこには『自殺屋』と書かれていた。

文字は多少擦れ、それが一層自殺屋の怪しさと不思議さ、そして恐ろしさを醸し出す。

男が店の中に入るのを見て、少年は足を止め、店に入るのを渋った。

入っても大丈夫なのか怪しいところである。

入ったならば最後、出てこられないのではないかと、悪い想像ばかりが頭の中を廻る。

少年が店の敷居を見つめたまま動かないでいると、先に店に入った男がガラス戸の隙間から顔を出した。

しばらく少年を見つめると、暗闇からぬっと左手を出し、小さく手招きをする。

その仕草が余計に恐怖を駆り立て、少年は表情を固くした。

「大丈夫ですよ。獲って食べたりしませんから。自殺屋について説明致します。どうぞ中へ。」

にこりと笑顔を見せると、再び店内へと姿を消した。

相変わらずそこには暗闇と静寂が鎮座している。

少年は数十秒そのまま動かず見えない店の中を睨み、そちらへむかって足を踏み出した。

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