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自殺屋  作者: 桶十芭
11/29

Case2-5+決意

一年が過ぎた。

少女はひたすら自殺屋の本を読むことに没頭していた。

本を読むことが、少女の生甲斐のひとつになったと言っても過言ではないだろう。

自殺屋の店主はなんの変わりもなく、そんな少女の姿を見ていた。

   

「こんにちは。」

「ああ、いらっしゃいませ。」

少女は店に入り、にこやかに男に挨拶をした。男も同じように、微笑んで返す。

持っていた本を棚に戻すと、新しい本を手に少女はカウンターの前に置いてある椅子に座った。

男がじっと少女を見ると、少女はにっこり笑って話を始めた。

「私、もう一度学校に行くことにしたんです。」

「おや、そうですか。」

「ずっとこのままでいるわけにもいかないし、城田さんや自殺屋さんに勇気を貰った気がするから。私、自分で自分が変わったと思うんです。」

「ええ。私もそう思いますよ。貴女の心からは大分自殺の影が薄れていっています。良い傾向ですね。」

「ありがとう。でも、もう少し、この店の本を読みきるまで借りていてもいいですか?」

「もちろんです。是非読みきってください。」

男がこくりと頷くと、少女は嬉しそうに笑った。

一年前の少女の姿は、もうどこにもない。

椅子から元気に立ち上がると、男に笑顔で「また。」と告げ、本を持って外に飛び出していった。

   

「城田さん!」

少女が帰りがけに向かったのはカウンセリング。

学校のことで忙しく、ここに来るのは一週間ぶりであった。

はしゃぎながら部屋を覗き込むと、城田は少女に気づいて手招きをした。

「久しぶり。元気そうだね、よかった。」

「うん!私、学校に行くの。」

少女がそう報告すると、城田は心から喜び祝福をしてくれた。

しばらくすると、少女をソファに座らせ、正面に座って真面目な面持ちになった。

真っ直ぐに少女の目を見つめ、口を開く。

「俺、君のことが好きなんだ。本気だよ。歳は離れているけど、絶対に後悔させない。付き合ってくれないか。」

城田の突然の告白に、少女は戸惑った。

次いで嬉しそうにはにかみ、強く頷く。

「嬉しい。ありがとう、城田さん。」

その時、少女のかばんが倒れ、中から五冊の本が崩れ出た。

ごとりと本が床にぶつかる音がして、少女は慌てて本を拾い上げた。

その様子を見て、城田は不思議に思った。

只の本を、なぜそんなにも焦って隠すのかがわからなかった。

「それ、なんの本?」

城田に尋ねられて、少女は少し困った顔になった。

頭の中で、自殺屋の男の声が廻る。

『この店のことは誰にも話さないでください』

その忠告を忘れたわけでは当然ないが、少女は自殺屋の話を城田にした。

自殺屋との出会い、店主の人柄、本の内容。所々で城田に誰にも言わないよう念押しをしながら。

全てを話し終わると、城田はあまり良い顔をしなかった。

「あまりその店、行かないほうがいいかもしれない。」

「どうして?」

「何か変な感じがしない?ちょっと怖いよそれ…」

「でも自殺屋さんは凄く良い人なの。きっと大丈夫だよ。」

城田は嫌な予感がしていた。

その予感がそれほど時間をおかずに現実になる。

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