Case2-4+闇
少女が自殺屋を借り始めて一ヶ月、最初あまり乗り気ではなかったが、いつの間にか違和感なく通うようになっていた。
いつものように店に立ち寄り、いつものように男に挨拶をする。つもりだったのだが、男はカウンターにいなかった。
入ってもいいものかと悩むが、本を借りるだけなのだからと思い、足を踏み入れる。
店の中はいつも以上に静まり返っている。
「あの…」
一言店の奥に声をかけるが、男が出てくることはなく、物音もしない。
少女の借りた本は三つ目の棚に入った。自分の借りていた本を手に、棚に向かう。
四冊を戻し、新しく五冊出した。と、そこでふと店の奥の方を見やる。
五つ目の棚から奥は、真っ暗で何も見えない。
しばらくそのまま暗闇を見つめていると、かたりと何か物音がした気がした。
少女は少し戸惑ったが、カウンターに取ったばかりの本を置き暗闇の奥へと進んだ。
一歩、また一歩と歩を進める。しかし、いくら歩いてもまた新しく暗闇が出てくるばかりである。
二十分ほど歩いただろうか。
棚は、終わりを見せる気配もない。
ただ真っ直ぐ、黙ってそこに立っている。
こんな小さな店、なぜ二十分も歩いて壁が見えないのか、恐怖すら感じる。
少女は途中で奥に向かうのを止め、元来た道を引き返した。
一本道の廊下なのに、迷うのではないかと思ってしまう。
また二十分ほど歩くと、五冊分の空きがある棚が見えた。
そこで少女はどきりとした。
その棚の前に、男が立っているのだ。じっとこちらを見つめて。
少女は一度足を止め、ゆっくりと男のいる方へ向かった。
少女が目の前まで来ると、男はにこりと微笑んで言った。
「棚の最後は見られましたか。」
「…いえ。」
「そうですか。…そういえば言いませんでしたね。不用意に店の奥に入らないでください。今回はよしとしますが、今度店の奥へ立ち入った場合は…わかっていただけますね。」
終始笑顔で話す男が、何か生き物ではないものに思えた。
少女は一度頷き、カウンターに置いた本を持って店を飛び出した。
男は急いで去っていった少女を見送り、ほうきで店の前の掃除を始めた。