5 女人たち
広場は乗馬が出来そうなぐらい広く、柔らかそうな緑の芝生が短く刈り揃えられている。試験でこった身体を伸ばすべく、うーんと腕を伸ばす。
「あれ?」
何か変だなあと周囲を見る。広いからではない。試験会場にいた人数が圧倒的に減っているのだ。
「やだ、私場所間違ってないよねえ」
心配になるが、視界に試験会場の隣に座っている華やかな女人が見えたので安心した。ちょっと緊張するが声を掛けてみたいと思う。
「あの、もしもし」
恐る恐る声を掛ける。周囲に誰もいないので、きっと私が声を掛けていると分かってくれるはず。
「何かしら?」
くるりと美しく身体を回転させ、艶やかなしっかりした黒髪も身体に合わせたように美しくうねる。やっぱりあか抜けて、華やかで綺麗な人だ。
「あの、えっと。皆さんどちらに行かれたのでしょうか。あんなにいっぱいいたのに。まだ午前の結果は発表されていないですよねえ」
女人はまたくすっと笑う。
「ええ。結果はまだまだよ。帰ってから届くでしょうね。あなた、どこも身体に変化はなくって?」
「変化? ええ、食事もできたおかげで、元気ですし、身体も軽いです」
「ふふっ。お肉頂いた?」
「それが、火の通りが悪そうでやめちゃいました」
「賢明ね。あの料理も試験の一つなのよ。今、ここにいないものは、医務室か厠よ」
「えっ!?」
午前中の試験をねぎらっての昼食かと思いきや、まさか試験だったなんで。生肉を食べてお腹を壊すなんて、確かに役人として勤めるならあってはならないことかもしれない。
「せめて、付け合わせの薬味を食べていればまだ良かったのかもしれないけどね」
すごく苦い薬草が肉の隣にあったことを思い出す。苦かったが、胃腸にとてもいい薬草だと知っていたのでそれはすべて食べた。
「苦かったですよね」
「あら、食べたの? 肉は食べなかったのに。へえ」
女人は今度はしっかりと私を下から上へと眺めた。
「北の出身? 色素が少し薄いようだけど」
「都からそれほど遠くはないですけど、北方からきました」
目の前の黒い髪、黒い目の彼女に比べると、私は髪も瞳も少し色が薄いので美しいとは言えなかった。
「さて、身体検査が始まるようよ」
試験官がぞろぞろとやってきた。そしてあちこちに散っていたのか、元々いたのか女人たちも集まってくる。
やはりさっきの背の高い試験官が私たちの目の前に立つ。
「随分、ふるい分けられたのう。もっと多いかと思って広場にしたんだが」
そうつぶやいてから、身体検査について説明を始める。
「これは試験ではないが、医師に検査をしてもらう。順番に並んで診てもらうように。それで今日は解散となる。今週中には試験結果を届けるので、内容を確かめるように。以上」
試験官の話を聞いた後、振り返るとずらっと医師が椅子に腰かけて待っていた。どこでもいいだろうと空いているところを見ると、やけに列を作っている者がいた。
「なんだろ。医師にも違いがあるのかしら?」
さっきの食事のことが試験だと知ってから、まさか医師選びも試験になっているのではないかと疑ってしまう。その並んだところにいた女人が、診察を終えてこちらに歩いてきた。息が乱れて、顔を赤くしている。どうしたんだろうか?何か病気でもみつけられたのだろうか?少し興味があったが、ほかはそんなに並びに差がないので適当に並ぶことにした。
「ふしだらなんだから……」
「え?」
後ろの女人のつぶやきに思わず振り向いてしまう。小柄で利発そうな女人だった。目つきはするどくとても静かなたたずまいをしている。さっきの女人と比べて着物もとても地味に見えるが、実はとても上等な物を着ているようだ。二世代ばかり古い柄だが、希少な古典柄だと本で見たことがあった。きちんと手入れされ、代々着られてるのかと感心した。
「この長い列の医師は、若くてとても美形なの。だから人気なのよ。ただ脈に乱れが生じるから並ばないほうがいいのよね」
「へえー」
この女人もしっかりしているなあと感心する。自分も知識や、見識、判断力にはちょっと自信があったが、まだまだいろんなすごい女人がいるのだなあと感心させられる。
優しそうな初老の医師に脈を診てもらい帰路につく。疲れた一日だったがいろんな経験ができた。精一杯やったし、あとは落ち着いて結果を待つことにしよう。




