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あなたが愚かだっただけの話

作者: 氷村はるか
掲載日:2026/08/05

約2000文字程度の作っと読めるショート作品です。

※カクヨムにも投稿します


「それで、貴殿方は一人の女性の人生をズタズタのボロボロにして市井に落として。そこまでして見栄を張りたいのならば先代方も肩を落とすでしょうね」


私の言葉にその場にいた者は声を無くす。


「ぶ、無礼な。王族に向かっての言葉とは思えん ! 」


一人の老貴族が怒りに震えながら言う。


「あら。王族ならば事を狭小な世界で判断してはいけませんわ。どうせ惚れた弱みであることないこと信じ込んだのでしょう」

「そ、それは」


威勢のよかった老貴族は押し黙る。ということは、この断罪に不審感を抱いているということでしょう。


「王太子殿下」

「なんだ」

「婚約破棄宣言をする前に。断罪をする前に、事を詳細にお調べになりまして ? 」

「ああ。証拠も揃っているのだ」

「どのような ? 」

「学院の者から得た」

「失礼。一番不審極まりない不確かな証拠ですわ」


言葉を遮って話す私を、王太子の側近の一人が睨みつけてくる。


「貴様、先ほどから失礼だぞ」

「ヨハン、この者には後で処分を伝える。今は好きなように言わせておけ」


そんなこと言っていいのかしら。

本当に何も調べることができないのね。王族なのだからあらゆる手段で情報を得ることが出来るでしょうに。

周囲に視線を向けると、何人か王太子の発言に青ざめている者が居る。

その方々は王太子に買収や脅しをされたか、私がこれから何をしようとしているのか理解しているのでしょう。関心いたしますわ。

各家の諜報員が素晴らしい仕事をしているということだもの。

それにしても、王太子を囲む男どもときたら……。

次期宰相 ?

次期騎士団長 ?

王太子の婚約者である私に失礼極まりないですわ。

私がこの国においてどの様な立場の人間か理解できていないようね。だから好き勝手している王太子に諫言もできないのでしょう。将来に不安しかない国になりますわね。


「処分を受けるのは王太子ですわ」

「は ? 」


片手をあげ言葉を続けないように促し一回手を叩く。

すると、どこからともなく文官が現れた。


「こちらに」


彼から書類を受け取ると下がらせる。


「私が調べ上げたものですわ」


王太子の側近と目が合ったのだけれど、随分と顔を青くしているわね。

それも当たり前かしら。書類を持ってきた方には我が家の家紋を身に着けてもらってきたのよ。

ま、それはどうでもいいけれど。と、手にした書類の束をめくり読み上げる。


「物が失くなったのはただの忘れ物をしたということだそうですわ。怪我をさせられたと言うのは自分で転んだだけです。階段から落とされたのは確かのようですけれど、私とは別の婚約者様がいらっしゃる女性のだそうです」


最後の言葉にお集まりの方々は敏感に反応しましたわ。

そう、王太子をお慕いしていると言っている令嬢は、何人もの他家の婚約を破断にしてきた元凶でしてよ。

ハニートラップに引っかかったことにも気付かないなんて。


「これ以外にも多々あるのですが、これら全てを王太子の婚約者である私のせいにして破局させるのが狙いだそうですわ。魅了の術を使用して」


怒気を孕んでいた王太子の表情が訝しげなものになる。


「破局させるという部分でしょうか ? 」

「いや、その後だ」


王太子の隣にいた無作法令嬢が焦りだす。上手く隠そうとしても無駄よ。


「では、魅了の術という部分でしょうか」

「そうだ。魅了の術は精神的に大きな影響を及ぼすため、法で絶対的禁止とされている」

「もちろん、他国でもそうですわ。でも稀に先天的や体質的なもので、魅了の術を使う者が生まれるのです。国をどうにかしたい貴族はこぞって手に入れたがるそうですわ」


王太子は己の犯した罪に、犯そうとした罪に気付いたかしら。


「王太子の婚約者である私はこの書類に書かれていること以外にも、一切関わっていないことをお伝えいたしますわ」


無作法令嬢は私を睨み、魅了の術を使用しましたわ。その力が。自分の持つ力がどのように危険かなど知らないのでしょうね。だからそこかしこで使ってきたのでしょう。

私は先ほど書類を持ってきた文官にお願いをしましたの。


「消してくださる ? 」

「かしこまりました」


彼が指をパチンと一度鳴らすと、多くの方々が夢から覚めたような表情をしました。

思っていた以上に術に掛かっていらしたのね。


「彼も魅了の術を使用できますの。ご安心なさってくださいまし。我が家で訓練をさせましたので相殺が可能ですの。婚約破棄をされるのはどうやら私ではなく、王太子のようですわね」


王太子は膝から頽れました。

私の発言にショックを受けたのか、それとも魅了の術が解けその反動が出ているのか分かりませんけれど。


「私からはもう何も言いませんわ。後は国王両陛下と我が家の者たちでの話し合いということになりますわね。それでは皆様、不愉快なお芝居にお付き合いくださり感謝申し上げますわ」


私は手伝ってくれた文官を供に、華々しくも毒を孕んだ場を離れましたわ。

この先どうなるかは分かり切ったことですけれど。


それでは皆様、ごきげんよう。





END




いつも応援していただきありがとうございます。

楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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