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n回目の青い春  作者: 結城 からく


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第99話 卒業

 数時間後の朝。

 亜子が何もしなかったため、卒業式は滞りなく始まった。


 体育館に数十人の生徒が入場してくる。

 誰もがぎこちない様子で、既に涙を流す者や喜びと興奮を隠し切れない者など反応は様々だった。

 彼らは卒業したくてもできなかった生徒だ。

 千載一遇のチャンスに気付き、急遽準備をして参加したのである。

 当事者を除き、誰も卒業式が妨害されなかった事情は知らなかった。


 入場する列に制服姿の隼人が紛れている。

 傷だらけの隼人は、全身各所に湿布や絆創膏を貼っていた。

 右腕に至ってはギプスで吊り、松葉杖を使ってどうにか歩いている。


 亜子との殴り合いで、隼人は重傷を負っていた。

 本来なら入院すべき状態だったが、無理やり卒業式に参加したのである。

 医者や両親は引き止めたものの、彼の意志が揺らぐことはない。

 己の執念で掴み取ったループ脱出の機会を見逃すはずがなかった。


 隼人を隣で支えるのは彩だ。

 彼女は傷を負っておらず、涙で目が少し赤いくらいだった。


 ほどなくして、入場した生徒全員が座る。

 並ぶパイプ椅子の何割かが空席だった。

 通常通りに卒業式が行われることを知らないか、或いはループに留まることを選んだ生徒の椅子だった。


 どこか異様な雰囲気を孕みながらも、卒業式は進んでいく。

 その段取りは、お世辞にも円滑とは言えないものだった。

 卒業証書を受け取る手順や、起立と着席のタイミングを間違える者が続出した。

 校歌も曖昧で、まともに歌わない者も少なくない。

 卒業式としては締まりがなく、教師や保護者は怪訝そうにしている。


 彼らは知らない。

 この場にいる生徒が、十数年かけて卒業に至ったことを。

 卒業式の予行練習など遥か昔の出来事だった。


 何度かトラブルを挟みながらも、卒業式が終了した。

 隼人と彩は体育館を出て渡り廊下を進む。

 その時、校庭から「おーい!」という声が聞こえてきた。

 聞き慣れた声に、隼人と彩は立ち止まる。


 校庭で大きく手を振ってくるのは亜子だった。

 彼女は満面の笑みで叫ぶ。


「じゃあねーっ! 元気でねー!」


 亜子は全力で楽しそうに別れを告げていた。

 そこに数人の教師が大慌てで駆け付ける。

 高笑いする亜子は、はしゃぎながら逃げていく


 一連の光景に隼人は苦笑した。

 隣を歩く彩も呆れている。


「ずっと殺し合ってたのに……滅茶苦茶だよねー」


「恨みはなかったからじゃないかな」


「それはそうかも」


 二人は一度だけ振り返ってから微笑み、その場を立ち去った。

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