第9話 死の記憶
隼人は叫びながら飛び起きた。
汗だくで荒い呼吸を繰り返しながら、彼は周囲を見回す。
そこは隼人の自室だった。
「な……んで……」
隼人が呆然としていると、部屋の扉がノックされた。
外から心配そうな母の声が聞こえてくる。
「隼人、大丈夫?」
「へ……平気……ちょっと悪い夢を見て……」
「厳しそうなら、今日は休む? 明日は土曜日だし、三連休にしちゃってもいいのよ。学校にはお母さんから電話するけど」
「大丈夫。ちゃんと行けるよ。心配かけてごめん」
「……そう。でも無理はしないでね」
そう言って母の足音が遠ざかっていく。
呼吸を整えた隼人は日付を確認する。
四月十一日のままだった。
「ループしてる……」
目標のプリントも同じ内容だった。
隼人はベッドに腰かけて、直前の記憶を思い起こす。
二つに増えた教室の机。
背中から胸にかけての鋭い痛み。
血塗れの刃。
そして薄れゆく意識。
いずれも鮮烈な感覚として脳裏に刻まれていた。
思い出すほどに鼓動が再び速まっていく。
小刻みに震える隼人は、恐怖に染まった顔で呟いた。
(あれは絶対に夢じゃない。目標をこなさずに死んだことでループしたんだ)
辛うじて保たれていた思考力が、一つの仮説を導き出した。
それは決して彼の心の安寧を約束するものではない。
むしろこの上なく残酷な事実であった。
部屋を飛び出した隼人は、トイレに駆け込んで嘔吐した。
殺された時の情景が頭の中を巡り、そのたびに昨日の食事を吐き出す。
やがて胃液しか出なくなった頃、ふらつく隼人は自室に戻った。
「刺された。あれはたぶん、刀だと思う……僕を殺したのは誰だ……何が目的なんだ」
どうしようもない恐怖と疑問が積み重なっていく。
隼人はベッドに倒れ込んで動かなくなった。
「こんなの……行けるわけないじゃないか……」
学校に行けば、また殺されるかもしれない。
その可能性に気付いた瞬間、隼人は涙を流して震えた。
その後、どうにか一階に移動した隼人は、今日は欠席することを母に伝えた。
用意された食事もとらず、彼はまた自室にこもる。
明日へ進むための気力は完全に霧散していた。
殺されたくないという想いだけが際限なく膨らみ、彼の思考を埋め尽くす。
目を閉じると市の記憶がフラッシュバックするため、隼人は眠ることもできずに恐怖を味わい続けた。