第8話 順調な歩み
久々の授業で疲労困憊だった隼人は、その日も帰宅と同時に就寝した。
そして目覚めると四月九日になっていた。
ここまでの経験から、プリントの目標をこなすことで明日に進めることを彼は確信する。
早朝に起きた隼人は、さっそくプリントを確認する。
その日の目標は「ホームルーム前に教室の掃除をしましょう」だった。
隼人は母に頼んで自分の弁当を作ると、六時前に家を出発する。
校門ではまだ挨拶運動がされておらず、代わりに朝練をする生徒のかけ声が聞こえてくる。
教室に着いた隼人は、掃除ロッカーから取り出した箒と雑巾で掃除を始める。
机が一人分しかないため、彼だけでもそこまで大変な作業ではなかった。
予鈴が鳴った直後、教室に尾崎がやってくる。
尾崎は綺麗になった床や窓に目ざとく気付くと、隼人の掃除を全力で称賛した。
ホームルームの時間を丸ごと使った褒め言葉の数々に、隼人は照れながらも嬉しくなる。
その後は特筆する出来事もなく、隼人はループせず翌日を迎えた。
起床した隼人は、四月十日の目標である「腕立て伏せを連続で十回」に自室で挑戦する。
運動不足が祟って何度か失敗するも、彼はどうにか成功した。
その日の学校は腕の疲れを気にしながらも平穏に過ごし、四月十一日へと進んだ。
「今日も簡単な目標だといいなぁ……」
ベッドから出た隼人は、情けないボヤキをしつつ勉強机に向かう。
プリントには「今日の目標∶校長先生と会話する」と書かれていた。
隼人はプリントを四つ折りに畳んで安堵する。
(今回も難しい目標じゃない。話しかけるのに少し勇気がいるくらいか。休み時間を使って探せば、たぶん会えるはずだ)
仮に失敗したとしても、同じ日をループするだけでいい。
数回ほど挑戦すれば必ずクリアできる。
そういった考えを持つ隼人は、あまり深く考えずに登校した。
挨拶運動にほどほどのボリュームで応じた彼は、まず三年一組の教室に向かう。
(時間もあるし、荷物を置いてから校長室に行こう)
隼人は教室の扉を開ける。
誰もいない教室には、机が二つ並んでいた。
「えっ、なんで……」
後ずさった隼人は、背中に鋭い痛みを覚える。
刹那、血に濡れた刃が胸から飛び出した。
(刺された……?)
急速に暗くなる視界。
頭の中を耳鳴りが反響する。
隼人は驚愕と苦痛に苛まれ、何もわからないまま意識を失った。