第7話 元気な挨拶
校門では風紀委員と教師の尾崎が挨拶運動を行っていた。
隼人は今日の目標を念仏のように唱えながら近づいていく。
「元気に挨拶……元気に挨拶……」
隼人は校門を抜ける前に足を止める。
そして風紀委員の面々に注目し、大きく息を吸い込んだ。
「おっ、ぅおっ……おはよう、ございますっ!」
隼人の挨拶に風紀委員達が目を丸くした。
全員が黙り込んだのを見て、隼人は「しまった」と後悔する。
彼が逃げるように校門を抜けようとした瞬間、その肩を大きな手が掴む。
笑顔の尾崎がそれ以上の声で挨拶を返した。
「おはよう、中島! 今日も来てくれて嬉しいぞ! 一緒に頑張ろうなっ!」
「は、はい……ありがとうございます……」
「さっきの元気はどうした! もっと腹から声を出すんだ、ははは!」
大笑いする尾崎に背中を叩かれて、隼人はよろめきながら校舎に向かう。
何度か振り返りつつ、隼人は首を傾げた。
(これで今日の目標はクリア……かな?)
隼人が三年一組の教室に到着すると、机はやはり一つだけだった。
他の教室は空で、始業式の日と同じ状況が続いている。
少し落胆した隼人は、大人しく席に座った。
(目標達成で元通りかと思ったけど、そう都合よくはないか)
その後、教科書を出して授業の準備をしているうちにホームルームの時間が訪れた。
尾崎の説明を聞きながら、隼人はループについて考える。
(目標のプリントがあったということは、たぶんループは継続中なんだろうな。一体どうすれば解除できるんだ?)
隼人は様々な可能性を思い浮かべてみるも、有用なアイデアは思いつかなかった。
そうこうするうちに尾崎が退室し、入れ替わるように数学の教師がやってくる。
さっそく黒板に書かれた数式を見て、隼人はうんざりした顔になった。
(十年間、暇潰しに教科書は読んでたけど、別に理解はしてないんだよなぁ……)
久々の勉強に手間取りつつ、それでも隼人はマンツーマンの授業をこなす。
内容は相応に難しかったが、十年ぶりの授業は隼人にとって苦痛よりも懐かしさが優っていた。
集中して取り組むうちに、あっという間に昼休みの時間となる。
母の弁当を平らげた隼人は学校を散策する。
新たな異変を発見するのが目的だった。
特に行き先を決めず歩き回るが、それらしきものは見当たらない。
午後の授業のチャイムが鳴り響き、隼人は諦めて教室に戻った。