第65話 ループの研究者
佐伯の向かい側に隼人と彩が座る。
隼人は魚がメインのA定食を注文した。
彼は食事を手をつけず、じっと佐伯の様子を観察している。
彩は肉がメインのB定食を選んでいた。
彼女は張り詰めた空気など気にせず、生姜焼きを頬張っている。
ごはんのお代わりを済ませたところで、彩はようやく本題に入った。
「先生はどうしてループのことを知ってるんですか?」
「僕自身がループ経験者だからだ。ちなみに教師になってからも数十年ほど観測している」
佐伯は視線をカレーに向けたまま、食事を止めずに応じる。
彩は気にせず質問を続けた。
「ループ経験者……ここの卒業生ってこと?」
「そう。卒業までに七十年かかった……ループの研究が面白くてね。ついつい長居してしまった」
「な……ななっ、七十年っ!? そんなに留まってたのー!?」
驚愕した彩は立ち上がって叫ぶ。
佐伯は特に表情を変えることなく淡々と注意した。
「食事中に騒ぐのは感心しないね」
「うっ……ごめんなさい……」
彩は縮こまって椅子に座る。
代わりに隼人が質問を投げかけた。
「七十年も研究していたのに、どうして卒業したんですか?」
「過去に囚われず、未来を知りたくなった。それと死ねないのが苦痛になったんだ」
「なるほど……」
神妙な面持ちの彩が頷く。
返ってくる答えを一つずつ咀嚼しているようだった。
「教師になって数十年ほど観測してるっていうのは?」
「そのままの意味さ。教師として働きつつ、君達のようにループする生徒を研究している。必要であれば助言するし、経済的な支援も行ってきた。無論、攻撃的な輩には協力しないがね」
「つまり佐伯先生は、百年以上もループの研究をしてるんですか?」
「ループ中とループ後を合算するとそうなるな」
「す、すごい……あたし達の十年なんてまだまだだね」
彩の呟きを聞いた途端、佐伯が表情を変える。
彼はスプーンを置いて二人を見た。
「ほう、十年に達した生徒を見るのは久々だ」
「珍しいですか?」
「普通は二年か三年で卒業する。それか永久に囚われて出てこない。かなり特殊なパターンだろう」
佐伯は過去の事例を語る。
隼人と彩は顔を見合わせる。
二人の脳裏には、十年分のループに留まる生徒の姿が何人も浮かんでいた。
その反応に佐伯はぴくりと目を動かす。
「何かおかしいことでもあったかな」
「えっと、実はですねえ……」
彩はこれまでの出来事を説明し始めた。




