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n回目の青い春  作者: 結城 からく


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第63話 質問の続き

 砂浜に到着した二人は、真っ先に購入した本を読む。

 早々と目標を達成すると、近くの店で水着や浮き輪を購入した。

 そうして着替えてから海に飛び込む。


 好き勝手に泳ぎ、水面に浮かび、砂浜で城を作っているうちに、日が暮れて夜が訪れた。

 海水浴に来た客も大部分がいなくなり、現在は少数の若者がはしゃいでいるくらいだった。

 隼人達はコンビニで調達した手持ち花火を開封し、それらを砂浜でしんみりと楽しむ。


 水着姿でパーカーを羽織る彩は、線香花火を垂らして呟く。


「夏ってイベントがいっぱいあって良いねー」


「そうだね……」


 隼人も自分の線香花火を見つめながら応じる。

 指先の震えが伝わったのか、パチパチと弾ける先端部が地面に落ちた。

 彩はこれ見よがしに笑って喜ぶ。


「はい、あたしの勝ちー。帰りにアイス奢ってねー」


「そんな約束してたっけ……」


「今決めましたー」


「ズルじゃない……?」


「ズルじゃないでーす。ちゃんと奢ってもらいまーす。もう決定でーす」


 彩は憎たらしい顔を作って煽り続ける。

 目が合った瞬間、二人は同時に笑い出した。

 下らない平和的なやり取りを楽しんでいるのだった。


 花火のゴミをバケツに入れつつ、彩はふと隼人に訊く。


「そういえば、進路はもう決めてるの?」


「どうだろう……大学受験は考えてないし、就職になるのかな」


「おお、一緒! あたしも卒業したらすぐ働くつもりだよー」


「大学とか専門学校は?」


「気になるけど、もう学生は飽きたかなー」


 そこで会話が途切れた。

 夜空を眺める彩が、唐突に切り出す。


「あのさ、昨日の話だけど」


「どの話?」


「小学生の質問。あたし達が付き合ってるかってやつ」


「えっ」


 隼人は反射的に彩の顔を見る。

 彩は目線を合わせず、静かに夜空を仰いだままった。

 暗いせいで隼人からは表情がよく見えない。


「あの質問、どう答えるつもりだったの?」


「い、いや……それは……」


「――じゃあさ。あたしが代わりに答えてあげよっか?」


 彩が不意に隼人を見つめる。

 その頬は紅潮し、目は僅かに潤んでいた。

 狼狽して動けない隼人に、彩はおもむろに身体を寄せる。

 彼女が次の言葉を吐こうとしたその時、遠くで爆発音が轟いた。


「うわっ」


「何?」


 二人は爆発が聞こえた方角に注目する。

 乱暴な運転の自動車が、砂浜を豪快に走っていた。

 その背後からサイレンを鳴らす数台のパトカーが追う。

 逃げる自動車の窓から少年少女が顔を出し、花火を振り回して騒いでいた。


 真顔になった彩はスマートフォンを操作する。


「高校生の銀行強盗だって。たぶんうちの高校……ループ組だね」


「今日、誰かがいるのは知ってたけど、まさかこんなことになってるなんて……」


「しかもこんな所で会うなんてさー。せっかくのムードが台無しじゃん!」


 彩は盛大にため息を洩らした。

 蛇行する自動車が二人に接近してくる。

 逃げても間に合わない距離だった。


「あーあ、最悪の終わりだー……」


「受け入れるしかないね」


「冷静だねえ、隼人君」


「開き直って強く生きるしかないと思うんだ」


「そうだね! あたしも見習おうっと」


 加速する自動車が二人を轢いた。

 前輪が隼人の頭部を潰し、彩の首を捻じ曲げた。

 即死した二人は"明日"で目覚めた。

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