第62話 海へ
翌日、美穂は隼人と彩にそれぞれ封筒を渡した。
彼女は二人に尋ねる。
「ありがとう、助かったよー。初めてのバイト、どうだった?」
「楽しかったです!」
「ぼ、僕も良い経験になりました」
「駄菓子屋はもう大丈夫だけど、働きたくなったらまた言ってね。色々紹介できるからさ」
「その時はよろしくお願いしまーす!」
二人は美穂に頭を下げてその場を去った。
移動中、彩は封筒を開いて中身を覗き見る。
彼女はその金額に目を輝かせた。
「いいね! しばらく豪遊できるじゃん」
「バイト代は今後に備えて貯金するんじゃなかったっけ……」
「あれ、そうなの?」
「最初の目的はそんな感じだったと思うけど……」
「あはは、忘れてた」
隼人の視線を受けて、彩は誤魔化すように苦笑する。
それからふと、封筒を見て呟いた。
「ちなみにこの金額ってさ、絶対に赤字だよね」
「うん。僕達を雇う意味ってなかったと思う。バイトにしても一人で問題ない忙しさだった」
「あたし達のために、わざわざ仕事を用意してくれたのかなー」
「お婆さんの入院は嘘じゃないだろうし、発端は偶然だろうけどね。僕達の状況を気遣ってくれたのはあると思う」
「そっかー。また今度、お礼を言わないとね」
二人のそばを、自転車に乗った中学生が追い抜かしていく。
その背中が見えなくなった頃、彩は唐突に尋ねた。
「あっ、この後は予定とかある?」
「別にないけど……」
「じゃあ海! 海に行こう!」
「……え?」
強引に引っ張る彩に連れられて、隼人は電車に乗る。
気が付くと地元の海に到着していた。
駅を降りるとすぐに砂浜が広がっており、色とりどりのパラソルが並んでいる。
海で泳ぐ者や、ビーチバレーを楽しむ者もいた。
その光景に彩は早くもテンションを上げる。
「よし! 着いたぞーっ!」
「その前に目標をやっておこうよ」
「今日は何だっけ?」
「本を一冊読めばいいらしい」
「それじゃ、まずは本屋に突撃だー!」
二人は駅前の本屋に入る。
隼人は漫画、彩は絵本を購入した。
海に向かう途中、隼人は彩のチョイスに疑問を抱く。
「どうして絵本……?」
「だって読みやすいじゃん」
「まあ確かに」
「隼人君は何のマンガ?」
「アニメ化した作品の最新刊だよ。ループの影響で続きが読めなかったんだ」
「へー! それは念願って感じだねー。後で読ませてよ!」
「もちろんいいよ」
徐々に迫る海を前に、隼人も自然と笑みを浮かべていた。




