第60話 定まる覚悟
彩は驚きと困惑を隠さず問う。
「……どういうこと?」
「僕達はあまりにも無力だ。文化祭の時だって、二人だけじゃ絶対に詰んでいた。このままじゃ駄目だと思った」
「それで美穂さんに対策を訊いたんだね」
「うん。本当はこんなこと考えたくないけど、いつか準備不足で後悔しそうで……」
隼人はポケットから果物ナイフを取り出した。
鋭利な刃先を見つめて彼は言う。
「こんなもの……銃や日本刀が相手じゃ弱すぎる。でも、何も無いよりマシなんだ」
「隼人君……」
「ループ中の敵はクラスメートだ。僕は容赦しない……躊躇えば殺される。死にたくないから殺す……そういう覚悟が必要なんだと思う」
隼人は己に言い聞かせるように述べる。
その手は小刻みに震えていた。
大量の汗も暑さのせいだけではないだろう。
隼人の決意を聞いた彩は、仰向けに寝転がってぼやく。
「あーあ、物騒なことには巻き込まれたくないんだけどなー」
「ごめん」
「隼人君のせいじゃないよ。甘いことを言ってるのはあたしだから。むしろ重荷ばっかり背負わせてごめんね」
彩は跳ね起きて隼人を見つめた。
そして果物ナイフを握る手にそっと触れる。
「美穂さんから貰った情報、あたしにも教えてよ。一緒に卒業するためにね。殺し合いは嫌だけど、対策しないのは違うもん」
「うん、分かった。ありがとう」
「こちらこそ! 隼人君は頼りになるねー」
重い空気を破るように、彩はあえて普段通りの態度を貫く。
隼人はその気遣いにただ感謝した。
そこに小学生の集団がやってきた。
店内に入った彼らは隼人達を指差して叫ぶ。
「あっ、いつもの人じゃない!?」
「そうだよー、ヘルプで来ましたー。今日は何を買ってくの?」
即座に気持ちを切り替えた彩は、手慣れた様子で小学生の接客をする。
何も言えず呆けていた隼人だったが、小学生に話しかけられたことで我に返る。
「あのさ! これいくら!?」
「え、えっと三十円……」
「じゃあこっちと合わせて三つ買う!」
会計を終えた小学生達は、さっそくクジ付きの駄菓子を開封して一喜一憂する。
そのうち一人が隼人達に質問した。
「ねえねえ! 二人とも明日もいるの?」
「うん、いるよー」
「わかった! また来るから! じゃあねー!」
炎天下の中を走り去る小学生を見て、隼人と彩は呆気に取られた。
遠ざかる後ろ姿に揃って苦笑する。
「眩しいねえ」
「元気すぎるよ……」
「懐かしさを感じない?」
「あそこまで元気な時期はなかったかな……」
扇風機の前に座る二人は、なんとなしに息を吐いた。




