第59話 アルバイト
翌日、隼人と彩は古い駄菓子屋の前にいた。
シャッターを上げた美穂は、二人を店内に招いて説明する。
「うちのお婆ちゃんが入院しちゃってね。一週間だけ店番をしてほしいの」
「あたし達、未経験ですけど……」
「大丈夫! お客さんは小学生がメインだし、気軽に喋りながらやってくれればいいよ。お会計だけ間違えないでね」
「はーい」
彩は元気よく返事をした。
満足げな美穂は思い出したように言う。
「そうそう、暇な時間は自由に過ごしてね。その間のお給料もちゃんと出すよ」
「えっ、夏休みの課題をやってもいいですか!」
「もちろん! 二人とも受験生だからね。バイトしてもらえるのは助かるけど、まずは学業が最優先かな。その感じだと、ループ中の十年で勉強をサボりまくってたでしょ?」
「は、はい……」
「そんな落ち込まないで! 私の時もそうだったからさ。バイトでお金を稼ぎつつ、課題を終わらせようー!」
「おーっ!」
簡単な説明の後、美穂は荷物を持って店を出た。
彼女は時間を確認して歩き出す。
「それじゃ、私はそろそろ行くよ。来れない日は遠慮なく言ってねー。よろしくー」
「ありがとうございます!」
「よ、よろしくお願いします」
美穂を見送った二人は店内に戻った。
商品のチェックを済ませた後、彩は胸を張って笑う。
「よし、頑張ろっか」
「うん」
ところが一時間ほど経っても客は来なかった。
炎天下のアスファルトがじりじりと焼けて熱気を広げている。
扇風機の前に座る彩は、だらりと伸びをして寝転んだ。
「暇だぁ……」
「今のうちに課題やったら?」
「うーん、やる気が出ない……しりとりでもする?」
「しないよ……」
隼人は汗を拭い、ペットボトルの水を飲む。
道中で買ったものだが、既にぬるくなっていた。
それから数分ほど沈黙が続く。
意を決して口を開いたのは隼人だった。
「み、美穂さんに聞いたんだけど……」
「何を?」
「二学期以降のループの展開。詳しく確認してみたんだ」
「新しい発見でもあったの」
「……生徒同士の殺し合いが酷くなるって」
隼人の言葉を聞いた彩は上体を起こした。
彼女は首を傾げて思案する。
「他の卒業生の人達も、同じようなこと言ってなかったっけ。終盤に近付くほど、嫌がらせの妨害が増える……みたいな」
「うん。年度によるけど、その傾向はあるみたい」
「じゃあ新しい発見っていうのは?」
「人間の効率的な殺し方……あと便利な武器の場所とか、作り方を教えてもらった」
じっと俯く隼人は、淀んだ目で言った。