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第58話 立ちはだかる問題

 八月中旬。

 隼人と彩は喫茶店のテーブル席で昼食を取っていた。

 出来立てのドリアを慎重に食べつつ、彩は険しい顔で尋ねる。


「課題、あとどれくらいで終わる?」


「一週間もかからないかな……元々の量も大したことなかったし」


「ううう……あたしまだ半分くらい残ってるよぉ……」


「僕も手伝うから頑張ろう」


「隼人君、優しいねえ……後でジュース奢らせて……」


 彩は情けない顔で隼人に縋る。

 照れる隼人は、抱き着こうとする彩を懸命に躱していた。

 平和的な攻防をしばらく繰り広げた後、彩はふと顔を曇らせる。


「それにしてもさ、ちょっとヤバくない?」


「何が?」


「あたし達のお財布事情」


「あっ……」


 フレンチトーストを食べていた隼人は、ぴたりと停止した。

 彼は恐る恐る自分の財布を開いて中身を見る。

 数枚の紙幣と小銭の存在を確かめた隼人は、彩と似たような表情になる。


「だいぶ少なくなってきたね」


「色々使っちゃってるもん。遊びもそうだけど、ループの対策とか突破にも必要だったし」


「……今後、お金がないと厳しい状況もあるのかな」


「あってもおかしくないよねー。不意打ちで詰みになるとか嫌だよ」


 食事の手を止めた二人はじっと考え込む。

 互いに真剣な目をしていた。


「お金……」


「稼ぐしかないね」


「困ってるならバイト紹介しよっか?」


 ピッチャーから二人のグラスに水が注がれる。

 喫茶店のウェイターであり、かつてループを経験した卒業生の美穂だった。

 美穂は勝ち気な笑みで二人に告げる。


「未経験者でも気軽にやれるバイトあるよ」


「えっ、いいんですか?」


「もちろん。むしろ働いてくれると助かるかも」


「じゃあやります! やらせてくださいっ」


 彩は乗り気になって頼み込む。

 一方、隼人の顔は不安に満ちていた。

 彼は下を向いて自問自答を重ねる。


(僕なんかにできるのかな……失敗したら迷惑だし、ここは断ってもいいかもしれない。他にもお金を調達する手段はあるんだから……)


 美穂が隼人の肩に手を置き、彼のネガティブな思考を中断させた。

 彼女は柔らかな声で尋ねる。


「心配しなくても大丈夫。とりあえず挑戦してみない?」


「あっ、じゃあ……お、お願いします」


「うん、こちらこそよろしく。バイトの細かい話は後で連絡するねー」


 颯爽と踵を返した美穂は厨房へと消える。

 機嫌を直した彩は、残ったドリアを掻き込みながら言う。


「バイトかー、楽しみだなー。隼人君は何かやったことある?」


「一回もないね。うちの高校、バイト禁止だし……」


「あれ、そうだっけ。じゃあバイトって不味い?」


「無断は厳しいかも……尾崎先生に確認した方がいいと思う」


「よし! じゃあさっそく聞きに行こうー」


 喫茶店を出た二人は学校へ向かい、部活動の指導をしていた担任の尾崎に話しかけた。

 そこで、社会経験のためにバイトの許可が欲しいと頼む。

 暫し悩む尾崎であったが「学業を疎かにしない」という約束のもとで承諾した。

 こうして二人は、美穂の紹介するバイトに参加することとなった。

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