第56話 祝賀会
焼肉チェーン店のテーブル席。
グラスを掲げた彩は、元気よく音頭を取る。
「それじゃあ、今日はお疲れ様! かんぱーい!」
席に座る隼人と野球部員の四人はグラスを打ち合わせた。
金網の上では注文した肉が焼けて、香ばしい匂いを立ち上らせている。
その光景に彩は目を輝かせた。
「牛タン食べ放題のプレミアムコースなんて豪勢だね……!」
「お前がさっき言ってたろ。俺達はループするから、別に出費しようと関係ない」
「やったー! ゴチになりまーす!」
調子よく頭を下げる彩に、野球部員達は苦笑する。
グラスの烏龍茶を飲んだ彩は、残念そうに嘆息した。
「これでレモンサワーとか飲めたら最高なんだけど」
「僕達、まだ未成年だけど……」
「体感的にはアラサーだからねえ」
「でも駄目だ。ルールは守れ」
野球部の一人が厳しい顔で指摘する。
彩は口を尖らせて言い返した。
「ちぇっ、ケチ……自分達だってズルして最強になったくせに……」
「二人も似たようなものだろう?」
「ううん、あたし達はダラダラ好き勝手に過ごしてただけだよ! ねっ、隼人君!」
「み、認めたくないけどそうだね……」
隼人は苦笑しつつ、静かに落ち込む。
野球部員達は彼に同情の眼差しを送った。
微妙な空気を変えるため、そのうち一人が彩に質問を投げる。
「ところで、さっきの試合はどこから見てくれたんだ?」
「最初から最後までだよ。ホームランばっかでびっくりしたねー」
「今回はホームランの飛距離を競ってたんだ」
「ん? 今回ってことは、毎回違う勝負でもしてるの?」
「そうだ。十年もやってたら真剣勝負だけじゃ退屈になる。色んな制限をかけたり、試合とは別に目標を決めてやってるんだ」
「ふーん……」
相槌を打つ彩は、肉を頬張りながら思案する。
それを飲み込んだ彼女は、ずっと気になっていたことを訊いた。
「四人はどうしてループしてるの? 甲子園で優勝するだけなら、もう簡単に達成できるよね。今日だって余裕で勝ったんだから"明日"に進んでもいいじゃん」
「……今日を終えるのが、もったいないと思ってしまうんだ」
「優勝を繰り返すのも悪くないけど、そこに強いこだわりはない」
「勝っても負けても楽しい。このメンバーでずっと野球をすることができる」
「そうそう! 俺達は引退したくないんだ」
四人は熱を帯びた目で答える。
爽やかで、しかし強烈な執着心だった。