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第55話 球児たち

 試合後、隼人と彩は球場の外にいた。

 炎天下を汗だくになりながら二人は歩く。


「結局、変なことは起きなかったね。拍子抜けしたなー」


「平和に終わるならそれでいいと思うよ……」


「でもさ、あの四人のこと気にならない?」


「興味ないと言ったら嘘になるけど……」


「せっかくだし、ちょっと会いに行こうよ。ほら、ちょうどあそこにいる」


 彩が指差したのは小さな木陰だった。

 ベンチに腰かけているのは直前の試合で活躍した四人――すなわちループ中の三年だった。

 隼人が止める間もなく、彩は気さくに歩み寄って声をかける。


「試合お疲れ様ー。大勝利だったね」


「……誰だ」


「立花彩。こっちは中島隼人君。クラスメートだよ」


 彩は何気ない自己紹介を済ませる。

 クラスメート。

 その言葉の意味を瞬時に理解した四人は、剣呑な気配を覗かせる。


「何の用だ」


「俺達は野球をしているだけだ」


「殺り合うのなら構わんが」


「お前らで勝てるのか?」


 四人はさりげなく金属バットを握って凄む。

 すると彩は両手を上げて弁明した。


「ストップ、ストップ。こっちに敵意はないの。目標は達成済みだし、君達とは今日限りでお別れだよー」


「じゃあ用件を言え。わざわざ話しかけてきたってことは、目的があるんだろう」


「え? ただの好奇心だけど」


 彩の答えを聞いた四人は、同時に「えっ」と声を洩らす。

 予想外の返しに思考停止し、戸惑っていた。

 その間に彩は早口で主張を続ける。


「十年もループして野球してる人がいるなんて思わなかったからさ。そりゃインタビューしてみたくなるじゃん。さっきの試合もめちゃくちゃ強かったし」


「ほ、本当にそれだけなのか……?」


「うん。他に何の狙いがあると思ったの」


「たとえば、殺したり騙したりとか……色々あるじゃないか」


 彩はケラケラと笑った。

 それから彼女はあっさりと返答する。


「あたし達はループしてるんだよ? そんなことしても意味ないじゃん。殺し合い自体が目的ならアリなんだろうけど、そこはむしろ遠慮したいもん。ねえ、隼人君?」


「ああ……もう懲り懲りだ」


 話を振られた隼人は、疲弊した表情で本音を垂れる。

 実際、その様子は演技ではなく、一学期に味わった経験を振り返っての純粋な感想だった。

 そして現在も、一触即発に近い空気で精神を削られている。


 自分以外が平常心を保てていない状況で、彩はマイペースに提案をする。


「というわけでさ。ちょっとご飯奢ってよ。ループでお金は戻るし、別にいいでしょ?」


 勢いに乗せられた野球部の四人は頷くしかなかった。

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