第54話 十年分の経験値
対戦する二校がグラウンドに入場する。
一方が隼人達の高校の野球部だった。
向かい合うように並んだ両者は礼をする。
彩は集合写真と実際の選手を見比べて語る。
「三年は四人……全員がスタメンだね。他のメンバーはループの自覚が無いけど、どんな試合になるんだろうね」
「うーん……」
隼人は、ループする四人の野球部員に注目する。
ぎらついた目に不敵な微笑。
緊張や不安を感じさせない、やる気に漲った姿である。
居並ぶ選手の中で、その四人だけが異様な雰囲気を醸し出していた。
彼らの年齢不相応な佇まいを観察し、隼人は予測を進める。
(殺意は感じられない……ただ試合に対する熱意っぽいけど……断言はできないな。何が目的か分からないうちは油断すべきじゃない)
隼人が疑いの目を向ける中、試合は始まった。
先攻は隼人達の高校だった。
一番バッターとして三年の一人が登場する。
溶けかけのアイスクリームを舐めつつ、彩は隼人に尋ねる。
「どっちが勝つと思う?」
「どうだろう。向こうは強豪校らしいから、順調にいけばうちの学校が負けると思う」
「でもループ組がいるからね」
「そうなんだよ。十年分の経験は大きい。ひょっとすると、プロ選手くらい上手いかもしれない」
隼人の推察を聞いた彩は、苦笑気味に手を振る。
「えー、さすがにそれはないでしょー。同じ日を繰り返すってことは、身体を鍛えても意味ないし……」
彩の言葉を遮るように、爆発的な歓声が上がった。
力強いスイングが第一球を天高く飛ばしたのだ。
ボールは勢いを落とさず、緩やかな放物線を描いて伸びると、そのまま球場の外へと消えた。
開幕直後に場外ホームランを披露したバッターは、大歓声を浴びながら悠々とベースを一周する。
さらにそこから怒涛の攻撃が続いた。
打席は残る三人のループ経験者に回り、全員がホームランを見せつける。
絶望的な展開での四点差に、相手チームの投手は顔面蒼白で固まっていた。
熱狂する周囲とは対照的に、隼人と彩は冷静だった。
「……前言撤回。十年分のトレーニングってヤバいんだね」
「まさかここまで強いなんて……」
その後、試合は一方的な展開が繰り返された。
相手チームも懸命に対抗したが、ループ経験者の猛攻を前に点差は開くばかりだった。
加えて各選手の癖を完璧に把握したピッチングには敵わず、一点も取れずに敗北した。




