第51話 青春の光景
翌日以降、隼人と彩は過去の卒業生を探し始めた。
ループに関する有益な情報を得るためである。
美穂の伝手で数人の卒業生と接触し、彼らの経験談や知識を集めていく。
新たな発見はなかったものの、全員が卒業式に参加することでループを抜け出したことが発覚する。
複数人の証言により、終了条件はより信憑性の高いものとなった。
情報という点での収穫は乏しかったものの、希望が見えたことで二人のモチベーションは上がっていた。
そして八月上旬。
今日の目標を達成するため、隼人と彩は電車に乗っていた。
車内は扇風機が付いているが、それでは誤魔化し切れない熱気が窓の外から注いでいる。
座席に座る二人は、憂鬱な表情で呻く。
「暑い……」
「やばいよね、八月。ダラダラとループしてたら死んじゃうって……」
「死んでも生き返るけどね」
「それはそうだね、ふふ」
自嘲気味に笑う彩は、タオルで顔の汗を拭う。
外の景色を眺めた彼女は、気を紛らわせるために話題を変えた。
「夏休みが始まってから、同じ日に誰かがいる時があったけど、まだ直接会うことはないね」
「みんな好き勝手に旅行でもしてるんじゃないかな。学校の近所にいなかったら、遭遇することもないだろうし」
「いいなー、あたしも旅行したいなー」
「変なタイミングで宿泊して、詰むような目標が出たら不味いよ」
「それもそっか。じゃあ駄目だね……」
電車が停まり、駅のホームから客が乗り込んでくる。
開いたドアから広がる熱気に、二人は思わず顔を顰めた。
電車の発進に合わせて彩は提案する。
「一緒に行動できる仲間でも探す?」
「別にいいけど、ヤバい人に当たるかもしれないよ。そもそも十年もループに留まってる時点で普通じゃないし、リスクはかなり高いと思う」
「その分析、あたし達にも刺さらない?」
「まあね……」
数分後、別の駅で電車が停まった。
今度はユニフォームを着た学生の集団がぞろぞろと乗車してくる。
日焼けした学生達は、テニスラケットを携えて談笑し始めた。
話題はゲームやアニメに関するものだった。
なんとなく耳を傾けていた彩は、羨ましそうに苦笑する。
「平和に青春を謳歌できるって、いいよね……元気で満ち溢れているというか……」
「うん、本当に……」
「あたし達、同じくらいエネルギーあるかな?」
「……無いかも」
「だよねー」
そう語る二人は、外見年齢に合わない哀愁を漂わせていた。