第5話 目標達成
その後、隼人は始業式に参加した。
校長の冗長な挨拶が続く中、隼人は眉間に皺を寄せて床を見つめる。
全校生徒が集まった体育館で、三年生は彼しかいなかった。
気まずさよりも、自分以外の誰もがこの状況を受け入れている事実に恐怖していた。
(どうして何も言わないんだ。明らかにおかしいじゃないか)
教師も生徒も違和感を持つ者はいない。
隼人だけが挙動不審な様子で辺りを窺っていた。
見かねた尾崎がジェスチャーでさりげなく隼人を注意する。
それに気付いた隼人は、動きを止めて校長に顔を向けた。
(半年前、僕の学年は間違いなく八組まであった。それなのに最初から僕一人ということになっている。皆どこに行ったんだ?)
結局、彼の疑問が解消されることはなく、始業式は滞りなく終了した。
隼人が教室に戻る途中、追いついた尾崎が声をかける。
「中島、顔色が悪そうだな。保健室に行くか?」
「大丈夫です、たぶん……」
「そうか。久々の登校だから無理するなよ」
「はい……ありがとうございます」
礼を述べる隼人の顔は、やはり浮かないままだった。
彼の脳裏では先ほどの始業式の光景が何度も繰り返されている。
(同じ一日をループしてるだけど思ったけど、他にも異変が起きているみたいだ)
教室に戻った後は、尾崎から明日以降の説明が行われた。
数分ほどの簡単な話が済み、二人きりで帰りの挨拶をする。
リュックサックを背負った隼人に、尾崎は気遣いの言葉を投げかけた。
「明日も待ってるが、まあ無理はせずにな。きついなら休んでもいい。自分のペースで頑張るんだ」
「わかりました」
隼人は逃げるように教室を飛び出した。
転びそうなスピードで階段を駆け下りて、まっすぐ自宅へと帰った。
部屋に入った隼人は、勉強机に置いたプリントに注目する。
そこには十年間変わらない「今日の目標:始業式に参加しましょう」のメッセージが記されていた。
「ちゃんと始業式に出たぞ。これで満足か。ループを解いてくれるのか」
隼人の独り言に応える者はいない。
何らかの変化が生じるということもなかった。
「そう都合よく進まないよな……」
ため息を洩らした隼人はベッドに倒れ込む。
久々の登下校と新たな異変の登場で、彼は強烈な疲労感に襲われた。
何かを考える暇もなく、隼人はそのまま眠りに落ちた。