第48話 関係者
三日後、隼人と彩は街中を歩いていた。
彩の足取りは軽く、上機嫌だった。
「隼人君からデートに誘ってくれるなんて珍しいねー」
「デ、デートじゃないから……」
「えへへ。それでどこに行くの?」
「あそこの喫茶店だよ」
隼人が前方を指差す。
そこには個人経営の小さな店があった。
近付くと香ばしい匂いが漂ってくる。
彩は不思議そうに尋ねる。
「コーヒーでも飲みたくなった?」
「ループを解除する手がかりを見つけたんだ……たぶん」
「本当に!? すごいじゃん!」
「ま、まだ確証はないよ。でも、きっと収穫はあると思う……」
自信なさげながらも、隼人は喫茶店の扉を開けた。
茶髪のポニーテールの若い女性店員が、笑顔で入り口までやってくる。
「いらっしゃいま……あっ、こっちの席にどうぞー」
二人は窓際のテーブル席に案内された。
向かい合うように座ると、店員が水とメニュー表を置く。
「ご注文は?」
「僕はアイスコーヒーで……」
「あたしオレンジジュースでお願いしまーす」
「アイコとオレンジね。かしこまりました」
軽い口調で応じた後、店員は隼人を見て告げた。
「もうすぐ休憩だから待っててもらえる?」
「分かりました」
隼人が頷くと、店員は颯爽と厨房へ歩き去った。
やり取りを目にした彩は、前のめりになって隼人に訊く。
「あのお姉さんと知り合いなの?」
「まあ、一応……」
「ねえねえ、どういう関係? ひょっとして元カノ?」
「えっと……全然そういうのじゃなくて……」
隼人が問い詰められる中、エプロンを外した女性店員が戻ってきた。
店員は三人分の飲み物をテーブルに置くと、隼人の隣に腰かける。
「お待たせー」
「…………」
ムッとした彩が隼人を睨む。
隼人は慌てて店員の紹介をする。
「こ、この人は真鍋美穂さん……僕達の二つ上の先輩で、過去にループを経験をしているんだ」
「えぇっ!?」
彩が反射的に立ち上がって驚愕する。
我に返った彼女は、周囲の客に謝りながら座り、小声で美穂に確認した。
「……ループの件、本当なんですか?」
「うん。君達と同じ高校三年生の時にね。あっ、今はループを抜け出して普通に生活しているよ」
「ど、どうやって脱出したんですか!?」
「高校を卒業したら勝手にループが終わったよ。他の皆も同じだって聞いたなぁ。途中で抜ける方法は知らないんだ、ごめん」
美穂は申し訳なさそうに頭を下げる。
彩が大げさに手を振って応じた。
「いえいえ! ゴールが分かっただけでも大きいので! 貴重な情報をありがとうございますっ!」
「あの、立花さん……声がちょっと、大きいかも……」
隼人が控えめに注意をする。
他の客は怒っておらず、ただ苦笑いしていた。
彩は「す、すみませーん」と言いながら縮こまるしかなかった。