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第44話 明日への一歩

 太一はその場に座り込んで下を向く。

 そして二度と動くことはなかった。

 首からの出血がアスファルトの地面に広がっていく。


 呆然とする隼人の手を彩が引いて走り出した。


「行くよっ!」


 我に返った隼人は、追いかけてくる警察に気付く。

 二人は土足のまま校舎に飛び込み、階段を駆け上がっていった。


「ど、どこに逃げるんだっ?」


「逃げる!? 違う! あたし達は進むんだよ!」


 彩は生き生きとした様子で応じる。

 その爽やかな横顔を見た隼人は、何も言わずについていく。


 無我夢中で走る二人が辿り着いたのは校舎の屋上だった。

 二人は鉄柵を乗り越えて縁に立つ。

 彩はぐっと伸びをして微笑んだ。


「ふう、文化祭楽しかったねー。隼人君はどうだった?」


「そうだね。僕も楽しかったよ」


「よかった! ラストは滅茶苦茶だったけどね。それはそれで悪くなかったかな、うん」


 ふと無言になり、隼人と彩は青空を見上げる。

 雲一つない、どこまでも澄み切った晴天だった。

 隼人は自然を笑みをこぼす。


「……結局、負けたけど。悪い気分じゃなかった」


「菅井竜輝のこと?」


「うん。すごく怖かったけど、僕は立ち向かうことができた。心がスカッとしたんだ」


「よかったじゃん」


「でも、そのせいで迷惑かけてごめん」


「気にしなくていいよ。なんだかんだで勝てたんだしさ」


 屋上の扉が勢いよく開かれた。

 現れた警察官は二人に必死に呼びかける。


「やめるんだ! 早まるんじゃないッ!」


 彩は一瞬だけ振り返って警察を確認すると、続けて隼人の顔を覗き込んだ。

 彼女は期待を込めて尋ねる。


「心の準備はできた?」


「まだ……って言ったら待ってくれるのか」


「ううん、無理」


「じゃあなんで訊いたんだ」


 突っ込みを入れた隼人に、彩はケラケラと笑う。

 彼女は鉄柵にもたれながら語る。


「私さ、バンジージャンプとかスカイダイビングをしてみたかったんだよね。隼人君は?」


「僕は高所恐怖症だから別に……」


「じゃあ今も怖い?」


 問われた隼人は、地上に注目する。

 足の竦む高さだったが、不思議と何も感じない。

 むしろ、これから起こす行動に胸が躍る感覚さえあった。

 心境の変化を認めた隼人は、彩の顔を見つめて答える。


「いや、そんなに怖くない」


「そっか。よかった、よかった」


 隼人と彩は手を繋ぐ。

 そして「せーの」という掛け声の直後、青空に向かって跳躍した。

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