第43話 別れ、そして
顔の血を拭った太一は、冷めた目で竜輝を見下ろす。
「人質なんて三流の悪役がすること……いや、つまり君にぴったりだな。よかったじゃないか」
「て、てめえ……!」
「うるさいな。立場を弁えろ」
太一の日本刀が、竜輝の右脚に突き立てられた。
鋭い痛みに竜輝は呻き声を上げる。
「この程度で騒ぐな。痛みくらい克服しろ」
太一は手際よく日本刀を動かし、竜輝の四肢を破壊していった。
関節や腱、指も丁寧に切断する。
仕上げに両目を割られると、堪らず竜輝は気絶してしまった。
太一は退屈そうに日本刀の血を振り払う。
「これで菅井竜輝君の身体的な自由は失われた。本当はもっと痛め付けたいが、死なれると台無しだからね。特別に手加減してあげたよ。既に救急車を呼んであるから、処置は間に合うだろう」
「あっ……どうして、ここに……?」
戸惑う隼人が問うと、太一は当然のように答えた。
「どうしてって、最初からこの学校が集合場所じゃないか。到着が遅れたのはすまない。暴徒の始末に時間がかかったんだ」
太一がせき込んで血を吐く。
彼は全身各所に傷を負っていた。
流れ出した血液が衣服を赤黒く染めている。
「他の連中は始末した。だけど、菅井竜輝だけあえて逃がした。君達の行き先も伝えておいた」
「何それ。やっぱりあたし達の妨害でもしたくなった?」
彩が軽く嫌味を込めて言う。
太一はそれには答えず、隼人の腕を掴んで立たせた。
「君をいじめて不登校に追い込んだと自慢していたのでね。俺が殺すのではなく、君が対決すべきと判断した。まあ、俺がいなければ二人とも敗北していたが」
「ごめん。助けてくれてありがとう……」
「礼には及ばないさ。おかげで楽しい殺し合いができた」
遠くから複数のサイレンが近付いてくる。
正門付近にパトカーが殺到するところだった。
苦笑した太一は二人に告げる。
「さて、逝くとするよ。俺は閉会式の放送を聞いていないからこれでお別れだ」
「太一君……また明日、追い付いてくれるよね……?」
「俺に"明日"は来ない。文化祭に留まって暴徒達と永遠に殺し合う。ここが一番楽しい日なんだ。勇気を出して進んでよかったよ」
「そんな……」
彩が悲しげな顔をする。
その間にも、パトカーから下りた警察官が続々と走ってくる。
「君達も早く死んだ方がいい。今回はループできない。生きたまま"明日"へ進むと厄介なことになる。死ねば不都合な事実がリセットされるから、自殺をお勧めするよ」
気さくに語り終えた太一は、日本刀で自らの頸動脈を掻き切った。




