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第41話 閉会式

 隼人と彩は、一般客に紛れて文化祭を巡った。

 彩は隼人の腕に抱き着き、仲睦まじいカップルのように振る舞う。

 その顔はふにゃふにゃした笑みを浮かべていた。


「えへへ、文化祭デートだねー」


「こ、こんな風に過ごす必要あるかな……普通にどこかで待ってるだけでも……」


「つまんないじゃん。せっかくだし楽しもうよー」


 密着を拒もうとする隼人に対し、彩は意地になって身体を寄せる。

 結局、根負けした隼人は何も言わず従うことにした。

 二人で屋台を冷やかす中、彩は残念そうに言う。


「終わるのが早いせいで、食べ物系がちょっと寂しいね。暇だし劇とかどう?」


「…………」


 隼人の視線は、校舎上部の時計に釘付けだった。

 長針が動いたタイミングで彼は必至に祈る。


(あと一時間……早く経ってくれ)


 歩いている最中、隼人は常に時刻を気にする。

 脳裏に浮かぶのは、母校を殺戮に興じる人間の姿だった。

 彼らに殺された際の記憶も同時に蘇る。

 意識しないようにするほど、それらは隼人の心を縛り付けていく。


 そんな隼人を現実に引き戻したのは、両頬への衝撃だった。

 気が付くと正面に立つ彩が、彼の頬を左右の手で挟み込んでいる。

 彩は小首を傾げて尋ねる。


「おーい。そんなに心配?」


「う、うん。そりゃまあ……」


「あの太一君が引き受けてくれたんだよ? たぶん大丈夫じゃないかなー。少なくとも閉会式までは問題ないと思うよ」


 彩は断言する。

 隼人は怪訝そうに訊いた。


「どうして、そんなに信じられるんだ?」


「太一君があたし達に託してくれたから……かな」


「何を?」


「明日だよ」


 その言葉に隼人は固まった。

 彩は真剣な顔で語る。


「昔は寝て起きたら明日だった。だけど今は違う。ちゃんと頑張らなきゃループして進めない」


「……うん、そうだね。」


「隼人君に追いつくために頑張った太一君が、自分を犠牲にして囮になった。それはたぶん、軽い気持ちではないと思うんだ」


 彩は慎重に、言葉を紡いでいく。

 彼女は隼人の手を優しく握り、静かに告げた。


「あたし達は、誰かの想いを背負って"明日"へと進む。それだけは、絶対に忘れないでいようよ」


「ごめん。分かった」


「いいよ全然! それじゃあ、さっそく体育館に行くよ! 演劇と演奏とダンス、漫才もあるんだって!」


 すっかり調子を取り戻した彩は、隼人を引っ張って走り出す。

 その後、二人は体育館での催しを満喫した。

 何事もなくすべてのイベントが終了し、壇上で演奏をしていた吹奏楽部が撤収を始める。


 隼人と彩が体育館の外に出た時、校舎のスピーカーから男の声が聞こえた。

 校長を名乗った男は、放送による閉会式を始める。

 生徒達は後夜祭に向けてさっそく準備を行おうとしていた。

 部外者である一般客は、屋台に寄りつつ帰り出す。

 校長の話を真剣に聞いているのは、隼人と彩だけだった。


 何の変哲もない無難な放送を聞きながら、二人は同時にしゃがみ込む。

 二人は脱力した様子で笑い合った。


「こ、これで目標達成かな……」


「たぶん……」


「ふう、一安心だね」


 気を緩めた二人の思考を銃声が遮る。

 悲鳴を上げる人々がパニックになって散っていく。

 騒ぎの中心に立つのは、鬼の形相をした菅井竜輝だった。

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