第40話 誰かを変える力
太一と別れた隼人と彩は、自転車での移動を再開した。
追っ手に注意しながら慎重に進むこと数時間。
午前九時過ぎには、目的地である私立高校に到着した。
二人は自転車を押して正門へと近付く。
敷地内は行き交う人々によって既に賑わっていた。
「もう文化祭が始まってるね」
「ここからどうしよう」
「さっきスケジュールを調べたけど、閉会式は正午ぴったりにやるみたい」
「かなり早いね」
「この学校は生徒限定の後夜祭がメイン行事みたい。だから一般公開の文化祭はさっさと終わるらしいよ」
入場時、二人は受付の教師に止められた。
しかし、彩は「友達に会いに来ました!」の一点張りで突破した。
指定の駐輪場に向かう途中、彩はニヤニヤと笑ってピースサインをする。
「ギャルってこういうので得するよねー」
「そ、そうだね……」
「あっ、太一君から渡されたナイフとスタンガンを持ってたじゃん。持ち物チェックされたらアウトだったね」
「バレないか心配だったよ……」
「あはは、綱渡りだねー」
自転車を停めた二人は、校舎へと向かう。
並んで歩く彼らを不審がる者はいなかった。
彩はスマートフォンで文化祭の詳細を調べて隼人に伝える。
「閉会式は校長先生が放送でやるんだって。一般客とか保護者がいる中で始まるから、あたし達も自然と参加できるよ。太一君、ここら辺も調べた上でこの学校を選んだのかな」
「すごいな……"今日"に来たばかりなのに」
「隼人君に負けたのがよほど悔しかったんだね」
「え?」
隼人は立ち止まって戸惑う。
彩は優しい声音で続けた。
「何も知らない人を殺すだけだった太一君が、十年ぶりに敗北した。しかも、見下していた君にね」
「…………」
「あたし達に追いつくまでに、きっと本人にしか分からない心の変化があったんだよ。だから手を貸してくれたんだ思う」
「そう、だね」
「まあまあ、そう暗くならないで。強い味方ができたんだから、素直に喜ぼうよー」
彩は明るい顔に戻って隼人の背中を叩く。
その勢いに流される一方、隼人は己の影響力について思案する。
(引きこもりで、何もできない僕にも、誰かを変えることができるのか……)
ふと、隼人は彩に訊きたくなった。
しかし気遣わせてはいけないと思い、そっと胸の内にしまい込んだ。