第4話 消えた生徒
無人の教室を目にした隼人は困惑する。
数秒の思考停止を経て、彼はゆっくりと室内へ踏み込んだ。
改めて見回すも、やはり一人分の席と教壇があるだけだった。
(教室……ここだよな……?)
首を傾げた隼人は廊下に出る。
入口上部のプレートには「3-1」の表記があった。
隼人はその足で隣の教室に赴く。
今度は机一つすらなく、完全にもぬけの殻となっていた。
続けて廊下の端まで確認したが、三年一組を除いて同じような状態だった。
無人の廊下を彷徨う隼人は、難しい顔で唸る。
「どうなってるんだ。八組まであるはずなのに……」
隼人は階段を下りて別のフロアを巡回する。
二年や一年は多くの生徒がおり、廊下を走ったり駄弁っていた。
隼人はさりげなく教室を覗いてみる。
室内には数十の机が並び、ホームルーム前の生徒達が楽しそうに会話をしている。
隼人は下級生の視線から逃げるように階段を上がった。
(おかしい。どうして三年だけ誰もいないんだ。尾崎先生が場所を間違えたのか?)
混乱する隼人は廊下を意味もなく右往左往し、結局は自分の教室へ戻る。
いくら考えても答えが出ないため、一つしかない席に座って待つことにした。
しばらくすると予鈴のチャイムが鳴る。
ほぼ同時に担任の尾崎が入ってきた。
不自然に広々とした教室を見渡し、尾崎は隼人に告げる。
「よし、今日のホームルームは無しだ。始業式が始まるから体育館に行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってください。他の皆はどこにいるんですか?」
「ん? 何の話だ」
「どうして僕の席しかないんですか。他の教室だって誰もいないし……」
隼人は居心地が悪そうに尋ねる。
すると尾崎は怪訝な表情で指摘した。
「何を言ってるんだ。今年の三年はお前一人だけだろ」
「は……?」
隼人はぽかんと口を開ける。
予想外の言葉に理解が追い付かず、何も言えなくなっていた。
逡巡の末、隼人はなんとか質問をする。
「えっと……この学年って八組までありましたよね……?」
「面白い冗談だな。中島が入学した年は受験生が他にいなかったじゃないか。その前後の学年は普通にたくさんいるんだが。いやー、すごい偶然もあるもんだな。正直、寂しさで不登校になる気持ちもよく分かるぞ、うん」
「あっ……あの……」
「でも先生な、中島がまた学校に来てくれて嬉しいんだ。困ったことがあったら気軽に相談してくれよ」
尾崎は気さくに笑う。
対する隼人は顔面蒼白で凍り付く。
得体の知れない不安が、彼の背筋をゆっくりと撫で上げていた。