第38話 夜の逃走劇
一連の説明を聞いた彩と隼人は互いを見る。
その顔は希望によって明るさを取り戻そうとしていた。
「今回の目標は、文化祭の閉会式に参加すること……」
「学校名は指定されていない……」
「あっ、わかった! 他校の文化祭の閉会式でも問題ないんだ!」
三人は点滅する信号を直進し、大きな道路を突き進む。
すれ違うトラックを一瞥した太一は、スマートフォンの画面を二人に見せる。
そこには、とある高校のホームページが表示されていた。
「今、俺達が向かっているのは、隣の市の私立高校だ。今日はそこでも文化祭が開催される。しかも閉会式の時間がこの地域で最も早い。完璧な条件だろう」
「ひょっとして、あたし達と会う前に全部調べたの……?」
「当然だ。俺が中島隼人君に殺されたのは、慢心が原因だった。あれから気を抜かないと決めた。考え得る可能性は常に想定している」
「徹底してるんだね」
「人生最大の屈辱的な敗北だった。だが評価もしている。こうして手を貸したのは、学びを与えてくれた礼だよ」
太一が皮肉を込めて隼人を見る。
隼人は気まずそうに目を逸らした。
互いに殺し合った経験は、未だ記憶に新しかった。
(まだ普通に話すのは難しいんだけど……)
隼人がなんともいえない表情になる一方、彩はすっかり元気になっていた。
彼女は満面の笑みで張り切る。
「とにかく、これで一件落着! あたし達は戦わずに"明日"へ進める!」
三人の後方で急ブレーキの音が鳴り響いた。
交差点を抜けた軽トラックが、乱暴に旋回するところだった。
エンジンを唸らせる軽トラックは、ハイビームを焚いて接近してくる。
迫る車体を見て彩は驚愕する。
「うわっ、何!?」
「文化祭に留まる者達は、十年分のループを殺し合いに費やしてきた集団……すなわち俺と同類だ。彼らは獲物を狩ることに特化している。こちらの動きを察知しても何らおかしくない」
軽トラックがクラクションを連発する。
蛇行運転しながら加速し、三人を撥ねようとしていた。
相手の意図に気付いた彩は全力でペダルを漕ぐ。
「どうして居場所がバレてるのぉっ!?」
「毎日、君達の動向を監視していたんだろう。妙な動きをし始めたから襲撃を試みたんだ。そのうち他の仲間も来るだろう」
衝突の寸前、三人は脇道に入った。
紙一重で躱された軽トラックはそのまま走り去る。
戻ってくる気配はなく、走行音はすぐに遠ざかっていった。
彩と隼人は全力の運動で疲労困憊だった。
太一だけは息一つ乱さずに説明する。
「とにかく逃げ続けるしかない。目的地の文化祭を潰されると面倒だから、とりあえず追っ手を撒くのが先決だ。上手く行き先を誤魔化しながら進んで……」
脇道の奥から、先ほどよりも甲高いクラクションが鳴った。
ヘルメットを被った少年が金属バットを掲げている。
少年は雄叫びを上げて隼人達に突進してきた。




