第37話 目標の歪め方
深夜三時。
隼人と彩と太一は、それぞれ自転車に乗って住宅街を走っていた。
一生懸命にペダルを漕ぐ彩は、先導する太一に尋ねる。
「ねえ、行き先はどこなの?」
「着けば分かる。質問する暇があるなら、一秒でも速く進むんだ」
「意地悪しないで教えてよ。気になって急げないじゃん」
「…………」
太一は眉間に皺を寄せる。
彼は小さく嘆息してから二人に訊いた。
「君達は"明日"に進むための目標についてどう解釈している?」
「解釈……って、普通に目標は目標でしょ」
「簡単な条件が多いとは思っているけど……」
答えを聞いた太一は大げさにため息を吐き出す。
彼は一瞬だけ蔑んだ目で振り返った。
「まったく、救いようがないほど愚かだな。理解に苦しむよ」
「じゃあ太一君は何を知ってるの」
「目標の歪め方を知っている」
前方が赤信号になったが、太一は気にせず加速した。
彩と隼人は慌てて追いかける。
「目標の歪め方……」
「中島隼人君を追いかける過程で、俺は目標達成でズルができることに気付いた」
「ズル? ちゃとクリアしないとループするだけだよ」
「やはり愚かだな。思い込みで事実を正しく認識できていないようだ。別に何ら難しい話ではない。子供でも解けるとんちみたいなものだ」
太一はため息混じりに説明する。
彼は二人の反応を確かめずに言葉を続けた。
「プリントに記載された目標は、大雑把な内容が多い。解釈次第で別解を導くこともできる」
目の前をタクシーが通り過ぎた。
急停止した三人は横断歩道を抜けて発進する。
「たとえば、英語の小テストを受けるという目標だった場合、君達はどう動く?」
「えっ、普通に授業で受けるでしょ」
「僕も……」
「その日の授業に英語がなければどうする」
太一に指摘された二人は顔を見合わせる。
明瞭な答えは出てこなかった。
街灯の無い暗い小道に入った辺りで、太一は経験談を語る。
「授業が無いなら、自作の小テストを作ればいい。俺は似たようなことをしてきたが、達成扱いで翌日に進むことができた」
「すごいね。そんな裏技があったんだ」
「知らなかった……」
「これが目標の歪め方だ。一見すると達成困難な状況でも、俺達の発想次第でいくらでも活路が開ける」
太一は自信に満ちた様子で言った。