第36話 三人寄れば文殊の知恵
これまでの文化祭のループについて、彩は太一に説明した。
太一は相槌を打ちながら静かに聞いていた。
その間、隼人は彼の背中に出刃包丁を突きつけていた。
もしも太一が不審な行動を取った場合、すぐに刺すためだった。
(向こうがその気なら、たぶん返り討ちにされる。実際は脅しにもなってないんだろうけど……)
常に集中しなければならないので、隼人は汗だくで疲弊していた。
持ち上げたままの包丁もぷるぷると震えている。
やがて話が終わると、太一は澄まし顔で言う。
「つまり君達は先に進みたいのに、暴徒を食い止める策がない。そういうことだね」
「うん。閉会式の参加が目標だから、殺戮が始まった時点で失敗みたいなものだしさ。どうにもならなくて困ってるよー」
「なるほど。君達は馬鹿なのかな?」
「えっ」
突然の罵倒に彩がぽかんと硬直する。
刹那、太一が日本刀の鞘を使って背後の包丁を弾いた。
驚いた隼人は包丁を落としてしまう。
慌てて拾おうとした時、隼人の喉には刃の切っ先が添えられていた。
「うっ……」
「解決策なんて決まっている。暴力だ。すべて暴力でねじ伏せればいい。君だって俺を殺して突破したじゃないか」
日本刀を鞘に戻した太一は平然と語る。
彼は包丁を掴み、軽いスナップで投擲した。
包丁は一直線に飛び、硬い音を立てて樹木に突き立つ。
それを見た彩は、恐る恐る主張する。
「ぼ、暴力だけじゃ解決できないこともあるよ」
「ならば策略の出番だ。閃きや創意工夫で舞台を整えて、最善の形で暴力を発揮する。別に難しい話じゃない。"明日"に進む意志が強ければ実現は容易いよ」
得意げに反論する太一に揺らぎはなかった。
彩は少しムキになって言い返す。
「やけに自信満々でまるで解決策を知ってるみたいな態度じゃん」
「思い付いたよ。君から話を聞いた段階でね。成功率は八十パーセントといったところだ」
「嘘でしょ。そんな方法あったら、絶対あたし達が思い付いてるもん」
「己の知能を過大評価しているね。反省した方がいい」
彩と太一は無言で睨み合う。
隼人はハラハラと見守ることしかできない。
(なんか味方っぽい感じだけど……いや、でも、僕とは殺し合ってるし……あー、どうしよう……)
一触即発の空気を前に、隼人の不安は増すばかりであった。