第35話 新たな問題
また沈黙が訪れた。
彩は言いづらそうに話を切り出す。
「ところでさ、ずっと気になってたんだけど……菅井竜輝って知り合い?」
隼人が動きを止めた。
幾度か言葉に迷った後、彼は頷く。
「……うん、一応。小学校から同じだから」
「仲が悪いの?」
「菅井君が僕を集中的に殺すから?」
訊き返された彩は黙り込む。
その指摘が図星だったからだ。
二十回以上のループのうち、竜輝は隼人の死因の大半に関わっていた。
銃殺に至っては二度や三度では足りなかった。
缶コーラを置いた隼人は、恐る恐る打ち明ける。
「ずっといじめられてるんだ。なんとか我慢してきたけど、高校二年で耐え切れなくなって不登校になった。僕にとってトラウマなんだ」
「それなのに訊いてごめんね」
「大丈夫だよ。もう、平気だから」
そう答えた隼人の手はまだ震えていた。
彼は拭い切れない恐怖に顔を曇らせて言う。
「菅井君は、昔より残虐で危険だった。十年分のループで人殺しを楽しんでいる。僕達をきっと逃がさない……目標達成を必ず邪魔してくるはずだ」
「ほんとに厄介だねー。今回から新しい問題も増えたのに……」
「そういえばそうだったね……」
隼人と彩は同時にため息を吐く。
ループする人間にとって、起床時に日付と目標プリント、集合写真を確認するのは習慣となっていた。
それら三つから状況を把握するのである。
公園に集合する前、二人は例に漏れず確認作業を行ってきた。
日付とプリントに異常はなかった。
問題は集合写真だ。
写真には、これまでの回の文化祭には存在しない生徒が写っていた。
彩は悩ましい顔で意見を述べる。
「消極的になるけど、しばらくは大人しくした方がいいかもね」
「僕もそう思う。今のところ打開策も見つからないし、当分は隣町で――」
「やれやれ、ここには臆病者しかいないようだ」
公園の入り口から、二人の会話を遮る声が上がった。
隼人と彩はぎょっとする。
日本刀を携えて佇むのは吉良太一だった。
「陰口とは感心しないな。正面から言えばいいのに、ほら」
微笑む太一は悠々と歩みを進める。
片手はさりげなく日本刀の柄に触れていた。
人差し指がカチカチと叩くように音を鳴らしている。
凍り付く二人の前にやってきた太一は、やはり微笑を浮かべたまま尋ねた。
「高校最後の文化祭だというのに、なぜそんなに浮かない様子なんだ。説明してくれるかな」
「説明したら、あたし達のことを殺さない……?」
「それは約束できない。だけど、断れば今すぐに斬る」
太一は淡々と宣言してみせる。
隼人と彩に選択肢などなかった。