第32話 最悪の目覚め
隼人は勢いよく目覚めた。
激しい動悸を感じて胸を押さえる。
息は荒く、全身が汗だくだった。
「こ、殺された……銃で撃たれて……」
動揺する隼人は時計を見る。
時刻は深夜の十二時半。
カーテンの隙間からは月明かりが差している。
「…………」
隼人は無言でこめかみに触れる。
今は何の痛みも残っていない。
しかし、弾丸が頭部を貫く感覚はしっかりと覚えていた。
彼は込み上げる吐き気をどうにか抑える。
(しかも僕を撃ったのは菅井君だった。まさか本当に再会するなんて……)
スマートフォンが着信音を鳴らした。
我に返った隼人はすぐさま手に取って応じる。
「もしもし……」
『隼人君? 大丈夫?』
「たぶん……立花さんの後にすぐ殺されたけど」
『そうだったんだ……』
通話相手は彩だった。
数秒の沈黙を挟み、彩はあっけらかんと言う。
『いやー、まさか文化祭の日がこんな状況なんてね。完全に予想外だったよー』
「たくさんの生徒がいる時点で警戒した方がよかったね」
『それはそうだけどさ。まさかいきなり殺し合いを始めるとは思わないじゃん。しかもお昼までは普通の文化祭だったし。さすがに予想できないよ』
「それは確かに……」
『騙されたなー。みんな、永遠の文化祭を楽しんでるわけじゃないんだ。あんなのおかしいよねー』
彩はわざと明るい口調で不満を垂れる。
それは内心の不安を少しでも和らげるためだった。
似た心境の隼人はそれを察し、苦々しい表情になる。
(あんな風に殺されたんだ。平常心でいるなんて無理に決まっている)
隼人はクラスの集合写真を確認する。
そこには隼人と彩の他に二十人ほどの生徒が映っていた。
(これだけの人数が同じ日をループしている……それも殺し合いのために)
隼人と彩は文化祭を楽しむつもりで"今日"までやってきた。
俊司と別れてからは、他の三年生と遭遇することもなかった。
そのため突然増えたクラスメートに驚かされつつ、二人は文化祭を満喫した。
正午を知らせるチャイムが鳴り響いた時、楽しい状況は一変した。
突如として他の三年生が殺し合いを始めたのである。
彼らは周囲の一般客や他学年の生徒、教師を無差別に襲った。
隼人と彩は急いで避難を試みたが、追い回された挙句に殺された。
そうして同じ日をループして現在に至る。




